健常マウスでは短時間の高濃度酸素曝露により幹細胞の動員が起こるが、虚血再灌流後の心筋保護については明らかではない。今回、長時間の高濃度酸素吸入が幹細胞の動員と虚血再灌流傷害に与える影響について調べた。100%酸素に20分間、60分間曝露した健常C57BL/6マウス(11-12週齢オス)から3時間後、24時間後に末梢血を採取し単核細胞を分離後、骨髄由来幹細胞数(c-kit陽性幹細胞)を flow cytometryで解析し、それぞれの群で骨髄由来幹細胞数はコントロール群と比較し有意に増加していた。しかし、同条件下での末梢血の単核細胞コロニー形成アッセイでは、60分間曝露群でコロニー形成数が3時間後及び24時間後ともにコントロール群と比較し有意に減少していた。同条件下でのマウス血漿中の血管内皮増殖因子(VEGF)の経時的変化をELISA法で測定し、コントロール群と比較し20分間及び60分間曝露群で3時間後にVEGFの有意な減少が認められた。次に、100%酸素に60分間曝露したマウスの24時間後の血漿中の炎症性サイトカイン(CXCL6等)をプロテインアレイで検出し、CXCL6の上昇が認められた。最後に、100%酸素に60分間曝露した3時間後のマウスで心臓虚血再灌流モデル(全身麻酔下に気管挿管後、左開胸し冠動脈前下行枝を30分結紮後に再灌流)を作製し、3日後、14日後のマウスの心筋組織でマッソントリクローム染色と抗Ly6g抗体や抗CD11c抗体を用いた免疫染色を行った。コントロール群と比較し60分間酸素曝露群では3日後にLy6g陽性好中球とCD11c陽性単核球の動員が認められ、14日後に心筋の線維化面積の増加が認められた。以上より、長時間の酸素曝露は健常マウスで幹(前駆)細胞の動員と機能障害を引き起こし、炎症反応を増強し心臓の虚血再灌流傷害を悪化させることが認められた。
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