研究課題/領域番号 |
20K09223
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
松本 重清 大分大学, 医学部, 准教授 (90274761)
|
研究分担者 |
李 丞祐 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (60326460)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 揮発性有機化合物 / 術中バイオマーカー / 臓器傷害 |
研究実績の概要 |
揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOCs)は、分子量300以下、常温常圧で大気中で容易に揮発する有機化学物質である。VOCsは、体内の様々な代謝経路を介し細胞から分泌され、血液を介し、呼気や唾液、尿などの体液へ転送され、生体内の代謝変化、生化学的変化を反映する。 近年、高感度で小型の計測器が開発され、呼気中VOCsの正確なリアルタイム測定が可能となり、疾患に関連するVOCsが多数報告され、早期発見のバイオマーカーとして期待されているが、周術期における検討はされていない。 周術期では、全身麻酔や手術の侵襲に伴い、細胞の代謝異常が生じると臓器傷害の一因となる。この異常をVOCs測定により早期に検出できれば、可及的速やかに予防策を開始できるため、術後合併症を未然に防ぐことが可能となる。 我々は、まず、術中にVOCsをリアルタイム測定するシステムを確立、次に、術後臓器傷害と関連するVOCsを特定、その絶対値や経時的変化により、臓器傷害の早期検出が可能かどうかを検討する。最終的には、呼気中VOCs測定による術後合併症の予防戦略を提案する。 本年度は、大分大学医学部附属病院手術部にて、研究の同意の得られた各種手術患者50名より、手術の前後で尿を採取し-80 ℃で凍結保存。後に凍結したまま北九州市立大学の李教授の研究室に送付した。解凍された尿サンプル1mlをZSM-5/PDMS複合薄膜チューブに入れ3時間振盪、膜の洗浄・乾燥を行い、メタノール溶出(100μl)した後、GC-MS分析にてVOCsを測定した。現在、術前後で大きく変化するVOCsや、術後に臓器障害を来した症例で特異的に変化するVOCsを検索する作業を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
各種手術患者50名において、手術前後に採取した尿サンプルをGC-MS分析してVOCsの網羅的測定は終了した。現在、術前後で大きく変化するVOCsや、術後に臓器障害を来した症例で特異的に変化するVOCsを特定するために、かなり時間を要しているが解析は順調に進んでいる。 その結果を研究分担者や研究協力者とディスカッションした後、予定されていた残り50名の尿サンプルを採取し、100名のデータにてターゲットとするVOCsを決定する。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、術中に変動する尿中VOCsの同定により、呼気中VOCsの標的成分を決定する。 続いて、特定されたVOCsをリアルタイムに測定できる、水晶振動子によるガスセンサを開発する。このセンサは水晶振動子の固有振動数が電極に付着した質量の変化によって変化することを利用したものである。微量のVOCsを検知するために、水晶振動子上には、特定されたVOCsを吸着する感応膜を開発し成膜する。この成膜を搭載したガスセンサシステムが完成したら、術中患者において、リアルタイム測定が可能かどうかを検討する。 VOCsのリアルタイム測定法が確立したら、可能な限り多くの患者の呼気中VOCsデータを集積する。同時に、血液も採取し、後に、炎症や酸化ストレスのマーカー(IL-6やマロンジアルデヒドなど)を測定する。 VOCs値と術後臓器傷害との関連を比較し、各種臓器傷害と関連のあるVOCsを特定する。臓器傷害については、肺はPaO2/FIO2比、腎は血清クレアチニン値、肝は総ビリルビン値、心臓はトロポニンT、凝固は血小板数を測定して評価する。VOCs値と酸化ストレスや炎症反応の血清マーカーも比較し、関連のあるVOCsを同定する。さらに、ウイスマー社のFREE Carrio Duo(当施設現有)により測定できる酸化ストレスの程度や抗酸化能もVOCs値と比較する。最終的には、術中の呼気中VOCs測定が、術後合併症を早期に予測できる指標となるか、また、酸化ストレスや炎症の指標となるかを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍に伴う当院の対策として、一時手術制限を行った影響もあり、研究開始時期が大幅に遅れてしまったため、想定していた100名の周術期の尿採取が50名にとどまってしまった。 また、大学の方針として、県外への移動も一時制限されたため、研究分担者と共同で行う予定であった50名の測定結果解析にも予想以上に時間がかかってしまった。現在、手術数は以前の状態に戻り、また、Zoom等による北九州市立大学とのディスカッションもスムーズに行えるようになったため、今後は研究を順調に進行できると考えている。
|