近年、各組織にて産生される揮発性有機化合物(VOCs)は、尿、皮膚、呼気等から検出されることが明らかとなり、各種疾患のバイオマーカーとして認識されつつあるが、周術期の検討は皆無である。周術期では、全身麻酔や手術の侵襲に伴い、細胞の代謝異常が生じると臓器傷害の一因となる。この異常をVOCs測定により早期に検出できれば、可及的速やかに予防策を開始できるため、術後合併症を未然に防ぐことができる。 昨年度の研究で、急性腎障害では揮発性代謝産物のアンモニアが関与していることが示唆されたため、李教授が開発したポリアクリル酸をアンモニアの検知素子とする水晶振動子ガスセンサによるアンモニアセンサおよびCO2センサ、温湿度センサ、VOCsセンサを手術室内の麻酔器の横に設置して、腹腔鏡下肝切除術において、呼気をリアルタイムにサンプリングして測定を行った。 術中呼気検体の採取については,気管内チューブから人工鼻の間で分岐した直後に採取した場合と,呼気サンプリングチューブが呼気終末CO2モニター装置に入る直前で分岐して採取した場合の異なった湿度条件下で,アンモニア濃度を連続モニタリングすることに成功した。呼気の採取個所によってアンモニアガス濃度が若干異なるものの,人工呼吸器の設定条件(呼吸回数や排気量など)が一定であれば,全体的に安定した値が得られる。手術開始から終了まで呼気アンモニアが1ppm 以下と低かったが、術中の患者状態は安定しており、また、術後も急性腎傷害などの合併症はなく経過したため、術中のアンモニア測定値と臨床経過は一致することも明らかとなった。 術中リアルタイムでアンモニア値を測定するシステムが完成したので、今後は症例数を積み重ねて、呼気アンモニア値の変化より術後合併症を予測できるかどうかを検討する方針である。
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