敗血症性ショックは急性循環不全により細胞障害および高乳酸血症を惹起し多臓器障害から死に至らしめる敗血症の重篤な一分症と定義され、集中治療の発展やガイドラインの普及にもかかわらず敗血症患者の全身管理を困難かつ複雑にしている病態である。その原因として、敗血症性ショックには血管内容量減少によるものと敗血症性心筋障害 (SIMD; sepsis-induced myocardial dysfunction)によるものとが混在していることが挙げられる。 我々の先行研究により、低酸素応答のマスターレギュレーターである転写因子HIF (hypoxia-inducible factor)を生体内で活性化することが、SIMDの軽減をもたらすことが明らかにされたが、その詳細な分子メカニズムは不明であった。 本研究において我々は、低酸素応答の活性化が、必須アミノ酸であるトリプトファンの代謝経路(キヌレニン経路)の代謝産物であるキヌレン酸の血漿中濃度上昇を介してSIMDの予後改善に寄与していることを明らかにした。 また、腎性貧血の治療薬として2019年に新規に承認されたHIF-PH阻害薬は、生体の低酸素応答を活性化することが出来る薬剤だが、我々はこのHIF-PH阻害薬が、kynurenine aminotransferases (KATs)の反応を活性化し、血漿中キヌレン酸/キヌレニン濃度比を上昇させることでSIMDの軽減を介し、敗血症性ショックの生存率を劇的に改善することを明らかにした。 本研究の成果により、既存薬を用いた介入により、今まで困難であった敗血症ショックの治療成績改善に大きく貢献できる可能性が示された。
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