研究課題/領域番号 |
20K09236
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
外崎 充 弘前大学, 医学部附属病院, 助手 (60419968)
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研究分担者 |
櫛方 哲也 弘前大学, 医学研究科, 准教授 (80250603)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自律神経機能 / オレキシン / 鎮静 / デクスメデトミジン / 青斑核 |
研究実績の概要 |
自律神経系制御に基づいたICUでの鎮静法の探求と言うテーマについて今年度は集中治療部で広く用いられているミダゾラム(MDZ)がオレキシン(OX)作動性神経活性にいかなる影響を受けるか検討した。対象としてOX神経の脱落によりOX神経活性が低い遺伝子改変ラット(TG)と野生型(WT)を選定した。両者に対しMDZを7.5または15 mg/kgを腹腔内投与し、投与から正向反射消失までの時間を導入時間、正向反射消失から回復までの時間を麻酔時間と定義し各々の時間を測定した。その結果導入時間はMDZ7.5 mg/kg投与群でWTが2.1+/-0.7分、TGでは 1.9+/-0.9分であった。MDZ15 mg/kg投与群でWTが3.4+/-0.9分、TGでは 2.8+/-0.8分であり何れの量でも両群に差がなかった。一方、麻酔時間に関しては7.5 mg/kg投与群でWTが7.5+/-2.2分、TGでは 18.9+/-2.3分、15 mg/kg投与群でWT:24.3+/-2.7分、TGでは36.8+/-5.6分とTGで有意に延長した。 一方、適切な鎮痛は適切な鎮静に必要な要素という観点からケタミンの鎮痛作用に及ぼすオレキシン活性の関与に関して検討を行った。上記のTGとWTを対象にケタミンを15 mg/kg腹腔内投与しホットプレート潜時を指標に鎮痛効果を比較検討した。その結果、ケタミンの鎮痛作用はWTの方で強く見られた。WTにおいてはOX脳室内投与でケタミンの鎮痛作用が増強された。この効果は同時に投与したOX受容体拮抗薬で相殺された。また、OX受容体拮抗薬単独でもケタミンの鎮痛効果は減殺された。このケタミンの鎮痛効果はWTとTGを通じて脳内のOX含量と相関した。このことはOXがその受容体を介してケタミンの鎮痛効果に影響しうることを示唆していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は前年度のデクスメデトミジン(DEX)とOX神経活性との関連を検討した点に加え、MDZとOX神経活性との関連を検討した。また、ケタミンの鎮痛効果におけるOX神経活性の関与も検討した。自律神経機能は交感神経ノルアドレナリン(NA)系と副交感神経アセチルコリン系により主に調節されているが、OX神経はNA系の細胞体が密集する青斑核を活性化することで交感神経活性を増強、調節する機能を持つ。今回、MDZの鎮静、ケタミンの鎮痛にもOX神経活性が関与することが示唆され、自律神経系制御に基づいたICUでの鎮静法の探求という本研究の主題から、交感神経活性を保持するOX神経活性が低下しているTGでMDZの作用時間が延長し、ケタミンの鎮痛作用が減弱したことで各々の適正な用量が病態によって異なることが確認され、OX神経活性を保持させる全身管理法が確立されれば、各種薬剤の投与量の安全域を広げることが可能であることも期待できるという見解を持つに至った。 麻酔後の睡眠状態の評価は確定しおらず、やや遅れ気味である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、我々はICUの重症感染症例のモデルとしてLPS腹腔内投与によるラットの敗血症モデルを作成したことを基に、ICUで用いられる鎮静薬ケタミン、DEX、MDZ等の鎮静が自律神経機能にいかなる影響を与えるか検討予定である。この検証により各々の鎮静薬が自律神経機能に如何なる影響を及ぼすか把握できると期待する。 OX活性は交感神経神経機能を保持することからその活性が低下したTGとそのWTラットを対象に各種薬剤の鎮静、睡眠の評価をおこなう。OX活性を調整することで感染症により阻害された自律神経活性を復元させ個々の病態に応じたより良い鎮静法の探求を目指した研究を進めていきたいと考える。
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