軽度炎症モデルとしてリポポリサッカライド(LPS)を体重あたり0.3g腹腔内投与したモデルを採用した。体重300から400gのオスの野性(WT)及びオレキシン(OX)神経活性が低下している遺伝子改変ラット(TG)を対象とした。LPS投与前は、レム睡眠に関しては、WTよりもTGの方がリズム不明瞭にある傾向にあった。LPS投与後にWTはTGに比べて暗期に覚醒時間が減少し、逆にノンレム睡眠時間が増加した。 OXの脳室内投与でプロポフォール麻酔時間は短縮したが逆に選択的OX1型の拮抗薬投与でプロポフォールの麻酔時間は延長した。プロポフォール麻酔時間に影響するOX受容体は1型であることが示唆された。またプロポフォール鎮静からの速やかな回復にOX作動薬も有効である可能性もある。更にOX拮抗薬は麻酔効果を増強する可能性があるため、「麻酔補助薬」としても、使用できる可能性も示唆された。 OX、OX1型受容体拮抗薬(SB)、ノルアドレナリン(NA)特異的破壊薬(DSP4)を用いケタミンの鎮痛メカニズムにおけるOXとNAとの関連について検討を行った。OX活性とNA活性の両方が低下した群でケタミンの鎮痛効果は減弱したが、OX投与によりケタミンの鎮痛効果が増強された。NA活性が低下した個体においてもOX単独投与によりケタミンの鎮痛効果が増強された。これらの増強効果はSBの投与で消失した。この結果は、、OX単独でケタミン鎮痛作用に関与することが考えられ、OXの作用を中心とした新しい鎮痛薬開発の道筋を示唆するものと考えられた。 研究期間を通じて集中治療で用いられているミダゾラム、また将来保険適用になることも期待されるレミマゾラムとOX神経活性の関係も検討した。幅広い範囲でOX神経活性は自律神経活性と共に鎮静作用に関与することが示唆された。
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