術後認知機能障害は手術・麻酔を契機として発症する高次脳機能障害であり、入院期間延長、医療費増大、死亡率増加を招く。高齢者人口の増大に伴う手術件数の増加により、今後増加していくことが懸念される。その発症には神経炎症による血液-脳関門の破綻が関与すると推察されている。Rhoキナーゼ阻害薬であるファスジルは、神経炎症抑制効果により虚血性脳脊髄傷害やアルツハイマー病などの予防、治療薬として有用である可能性が示唆されている。 本研究では雄性老齢ラットを用いて、ファスジルが全身麻酔下手術後の認知機能障害を抑制できるか否かを検討し、更に脳内炎症や血液-脳関門の機能的変化に及ぼす影響を検討することで、その脳保護効果の機序の一端を明らかにすることを目的とした。 生後18か月程度の老齢ラットに吸入麻酔薬であるセボフルランを2時間吸入させ、その間に開腹肝部分結紮術を行った後に閉腹した。行動試験としてモリス水迷路試験とFear Conditioning testを手術前及び手術後に行った。術後7日目にペントバルビタールによる深麻酔下に脳を灌流し、脳浮腫を評価するためにwet/dry比を測定した。 さらに血液-脳関門の機能的変化を評価するために、エバンスブルーを投与後に脳を灌流し、エバンスブルーの漏出量を測定した。 予備実験では、手術として脛骨骨折及び骨接合術を施行したが、術後認知機能障害が生じなかったため、手術を何種類か変更する必要があった。最終的に肝部分結紮術を選択し、上記の測定項目のデータを収集した。 現在収集したデータの解析中であり、研究成果を示すには数か月を要する見込みである。
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