重症患者の急性期循環管理においては、適切な循環を維持するためにカテコラミンを用いた薬理学的循環補助を行うが、心筋のアドレナリンβ受容体への刺激は、心拍出量低下を招く重症不整脈や致死性不整脈を誘発することが問題となる。頻脈性不整脈にはジギタリス、カルシウム拮抗薬およびβ遮断薬等が用いられるが、効果発現までの時間や同時に発現する陰性変力作用により、期待する効果を得がたい場合がある。本研究はブタおよびラットの生体モデルを用いて、β1受容体選択性の異なる3種のβ遮断薬が、カテコラミンによる心機能の増強に与える影響を心室圧容積曲線で評価するとともに、刺激性および抑制性G蛋白を介し たβ2受容体刺激によるシグナル伝達を評価することで、薬理学的循環補助における心筋アドレナリンβ2受容体の役割を解明することを目的とした。 β受容体の選択性がカテコラミン投与下の心機能に与える影響について、ブタの生体モデルを用いて、左室の収縮能と機械効率をβ遮断薬の用量を変えて評価した。プロプラノロールおよびエスモロールは用量依存性に左室収縮能・機械効率を抑制したが、ランジオロールにおける左室収縮能・機械効率の抑制はプロプラノロールおよびエスモロールよりも有意に弱かった。さらに、ホスホジエステラーゼ阻害薬(PDEI)を投与した際の刺激反応性を測定した。β1受容体遮断におけるPDEIに対する心収縮・機械効率はプロプラノロールおよびエスモロールよりもランジオロールの方で高い傾向にあった。 β受容体の選択性が細胞内シグナル伝達に与える影響について、ラットの生体モデルを用いて、心筋におけるPKAおよびAktの活性を評価した。プロプラノロールおよびエスモロールよりもランジオロールの方でPKAおよびAktの活性が高い傾向にあった。 今後、結論を導くために、例数を増やして統計学的検討を加える。
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