研究課題/領域番号 |
20K09251
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
田中 基 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (20303787)
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研究分担者 |
志田 恭子 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 臨床研究医 (00381880)
大澤 匡弘 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 准教授 (80369173)
祖父江 和哉 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (90264738)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 疼痛 / 大規模脳活動記録 / カルシウムイメージング |
研究実績の概要 |
本研究では、痛み刺激により活性化する多数の脳領域の間の情報伝達のメカニズムを明らかにし、その際に活動する神経細胞を人為的に操作することで痛み知覚を操作できるかを検証する。大規模脳活動記録と細胞活動イメージング、遺伝子工学による特定の神経回路の人為的機能調節を用いた最先端技術を融合して解析を行う。 大規模脳活動記録を無麻酔、無拘束の神経障害性疼痛モデルラットより行い、痛みの慢性化による脳活動の経時的変化を記録した。その結果、複数の領域において同期的な脳活動のパターンに変化がみられた。 次に、脳内in vivoイメージングで、脳深部の神経系細胞の活動の可視化を試みた。GCaMP7をアストロサイトと神経細胞に発現するマウスの脳深部領域にGRINレンズを埋植し、蛍光顕微鏡を用いて観察したところ、刺激によりアストロサイトや神経細胞の活動変化を観察することができた。(※論文公表ができていないため、脳領域については特定領域の表記はできない。) さらに、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、特定の神経細胞のみにムスカリン受容体の変異体であり、clozapine-N-oxide(CNO)のみで活性化されるhM3Dq(興奮性)およびhM4Di(抑制性)を発現させることができた。この動物を用いて、特定の神経回路の活動を時空間的に調節することが可能であることを確認した。このhM3Dqを領域Aから領域Bへ投射する神経にのみ発現させ、CNOを14日間にわたり投与すると、痛み閾値の低下が認められ、CNOの処置を中断したあとも、痛み閾値の低下が継続した。つまり、領域Aから領域Bへ投射する神経回路の持続的な活性化により慢性疼痛と同様の症状が再現されることが明らかになった。 これらの結果より、特定の神経回路の活動変化が様々な脳領域の活動へ影響を与えることで、疼痛の慢性化と難治化が進むと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書で計画した内容に沿って、問題なく進行しており、研究計画は順調に進展している。結果についても、自由行動下の神経障害性疼痛モデルラットの神経活動を取得し、その解析を行う段階まで来ている。また、脳深部イメージングの手法も確立することができ、今後、病態モデルを用いて解析をする準備もできた。遺伝子工学的な手法も確立し、特定領域へ投射する神経細胞へ人為操作を可能にする手法も確立でき、滞りなく計画を進行できている。
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今後の研究の推進方策 |
神経障害性疼痛藻モデルラットの大規模脳活動記録により得られた脳活動について、各脳領域内および領域間の活動周期性や同期性、情報のフローの方向性などを深層学習を用いて解析する。脳深部 in vivo カルシウムイメージングは、拘束している状態ではない神経障害性モデルマウスで、蛍光観察を行う実験系を立ち上げる。また、側坐核以外に、別の領域へもGRINレンズを挿入し、複数の脳領域での細胞活動の記録を可能にする手法の確立を行う。特定の神経回路の活性化による疼痛慢性化の機構については、領域Aから領域Bへ投射する神経の持続的活性化により疼痛が慢性化することがわかったことから、この領域を神経障害性疼痛モデル動物で人為的に抑制した際に、症状が改善するかについて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
引き続き、大規模電気生理学的記録、in vivo カルシウムイメージング、および行動生物学的解析を行うため、次年度使用額が生じた。 アデノ随伴ウイルスベクターやGRINレンズ、大規模電気生理記録に必要な消耗品や実験動物費用に充てる。また、データがまとまりつつあるため、学会発表の際の発表旅費や参加費用も必要である。
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