研究課題/領域番号 |
20K09260
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
和田 剛志 北海道大学, 医学研究院, 助教 (30455646)
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研究分担者 |
山川 一馬 大阪医科薬科大学, 医学部, 准教授 (50597507)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 外傷後二次性敗血症 / CyTOF / LUMINEX / 頭部外傷 / OMIQ |
研究実績の概要 |
頭部外傷(TBI)後二次性敗血症モデルを作成し、sham損傷後二次性敗血症モデルと①生存率、②生菌数の比較を行った。①生存率:TBI 87% vs. sham 67%とTBI群の方が生存率が高かった。②腹水中生菌数はTBI群ではsham群と比較して有意に低値であった。以上のことから、過去の報告同様、頭部外傷後に生じる免疫応答はその後の感染症/敗血症に保護的に働いている可能性が確認された。 続いて、LUMINEXによる血清、腹水中のサイトカインの網羅的測定を行った。TBI群では、IL-6、TNFalpha、IL-17に代表される炎症性サイトカインが有意に高値である一方、IL-4、IL-10などの抗炎症性サイトカインは両群間に有意な差は認められなかった。また、TBI群ではT細胞非依存性INF gamma誘導に重要な役割を果たすIL-12P70が高値であり、実際にINF gammaの高値も確認された。 以上より、頭部外傷後に生じる敗血症病態では、顕著な炎症反応活性化が病原体の除去、生存率の改善に寄与している可能性が示唆される。 上記2つのモデルにおける免疫細胞、特に好中球、単球(マクロファージ)をはじめとする自然免疫系の変化の解析をすべく、CyTOF mass cytometry用の検体を収集し、CyTOF測定を行った。今後、クラウドデータベースOMIC上で多次元解析を行い免疫細胞機能変化と上述の病態の関連を検討する予定である。TBIで生じている免疫変化を明らかにすることにより、新たな感染症治療の治療標的を見出すことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では肺炎球菌による肺炎を想定していたが、当施設で細菌を用いる実験を行うには、細菌の保存、使用実験室、実験手続きなど数多くの障壁が存在し円滑な実験遂行が困難と考えられたため、それにかわる感染症として盲腸結紮穿孔(CLP)モデルを確立させ、安定した重症度で研究に使用可能であることを確認した。 コロナ禍のため動物実験を行うことができない時期があったが、制限解除の時期に効率よく実験を行う計画を立てその通りに実行したため、研究はおおむね順調に進んでいる。頭部外傷に起因する免疫応答が外傷受傷後の感染症/敗血症に保護的に働くというこれまで明らかなになっていた結果を再確認し、先端免疫学解析ツールの一つ、LUMINEXによるサイトカインの網羅的評価が終了した。本研究の中心的役割を果たすCyTOF測定についても、共同研究先の米国ボストンからの抗体輸入、検体の輸送、染色、測定などすべての過程が確立しており、1回目のCyTOF測定が終了している。これまでCytobankによるデータ解析を行っていたが、より機能が向上し年間使用料の安価なOMIQを使用することとしたが、日米のOMIQ関係者からのサポート体制も万全であり、多次元データ解析を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
TBI、sham損傷後の敗血症(盲腸結紮穿孔)モデルの血液、腹水のCyTOF測定が終了しOMIQによる多次元解析を予定している。研究実績の概要に記載したLUMINEXの結果にこれを加えることで、感染症/敗血症に対する頭部外傷の保護的効果の免疫学的機序の一旦が明らかになることが期待される。 これらの解析で確認される頭部外傷に特異的に生じている免疫応答を外的に誘導することで、感染症の治療ストラテジーの一つとしての免疫療法の可能性を提示することが本研究の最終目標である。この免疫応答を誘導するキーファクターと推測されるNalp1インフラマソームのノックアウトマウス、特異抗体を用いたNalp1ノックダウン系において同様の検討を行う予定である。そして、薬物的Nalp1活性化の二次性感染症予防/治療薬としての可能性検討のためムラミルペプチド投与による免疫学的変化、生存率などを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
LUMINEXによる網羅的サイトカイン測定において、当初の計画より多くのアナライトを測定することとなり、高額の測定キットを購入する必要が生じたため前倒し請求を行ったが、若干の値引きがあったため残額が生じた。この次年度使用額は、今後の研究の推進方策に記載した、頭部外傷に特異的に生じている免疫応答を外的に誘導する実験に使用予定である。
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