研究課題/領域番号 |
20K09267
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
泉 友則 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (00261694)
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研究分担者 |
田岡 万悟 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (60271160)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 組織損傷 / 漏出タンパク質 / 貪食細胞 / 炎症 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、研究代表者がこれまでに特定した“組織損傷時に漏出し、単球表面に結合する細胞内タンパク質(細胞外機能分子)”について、組織中の貪食細胞、主としてマクロファージによる死細胞除去とその後の炎症応答(収束or 拡大)という観点から、ターゲットとなる反応とその作用を解析し、漏出タンパク質の炎症やショックにおける複合的な役割や創薬ターゲットとしての有用性を明らかにする。 令和3年度は、ホルボールエステル(PMA)にてマクロファージ様に分化させたヒト単球系細胞株THP-1を使用し、蛍光標識したラテックスビーズへの貪食能に対する細胞外機能分子の影響を解析した。さらに、貪食細胞における機能的役割を明らかにするために、貪食に伴うTHP-1のサイトカイン産生に与える影響解析を行った。貪食能解析は、以下の条件で行った。THP-1をPMA添加培地にて3日間培養し、マクロファージ様細胞(M-THP)に分化させた。M-THPを洗浄後、新鮮培地中に蛍光標識IgG被覆ラテックスビーズを添加し、さらに90分間培養した。ビーズを貪食した細胞は、細胞外機能分子存在下では、非存在下に比べて約2倍の蛍光強度を示し、本機能分子がM-THPの貪食能を増強することが明らかとなった。サイトカイン産生への影響については、PMA存在下で分化させたM-THPに、細胞死を誘導したマウスCTLL-2細胞を貪食させ、24時間後の培地を回収し、ELISA法にて各種サイトカイン濃度を測定した。貪食開始24時間後のM-THP培地中には、炎症性サイトカインIL-1 betaが検出され、その濃度は、細胞外機能分子存在下で、より高い傾向を示した。 以上の結果から、織損傷時に漏出し、単球表面に結合する本細胞外機能分子は、マクロファージ様細胞へ分化後のTHP-1細胞の貪食や炎症性サイトカイン産生を促進する作用を有すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、単球表面への結合能を有する細胞外機能分子の貪食細胞への作用について、分化誘導後のヒト単球系細胞株THP-1を使用し、(1)マクロファージ表面受容体への結合、(2)運動性と損傷部位への誘導、(3)貪食、(4)炎症性・抗炎症性応答の調節、以上4点について解析し、ターゲットを特定し、その分子機序を明らかにする。 令和3年度は、(1)マクロファージの貪食能に与える影響、および(2)マクロファージの炎症関連サイトカイン産生に与える影響、以上2項目を実施計画に記載し、実施した。本細胞外機能分子の貪食細胞に対する特徴的な作用として、貪食能亢進と炎症性サイトカイン産生増加が明らかになった(令和3年度成果)。ターゲットとなる作用が絞られたことから、次年度は、これらの機能発現に至る経路を分子レベルで明らかにできると考えている。いずれの項目についても測定データを着実に集積しつつあることから、おおむね計画通りの実施状況と言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、損傷細胞から放出され、単球表面に結合する一群のタンパク質から同定された細胞外機能分子が、単球細胞株においては、MAPキナーゼのリン酸化を増強する一方で、内皮細胞においては、その運動性を増加させ、組織修復を促進していることを明らかにしてきた。 本研究課題では、貪食細胞に特徴的な新しい作用として、細胞外機能分子による貪食能亢進と炎症性サイトカイン産生増加が明らかとなった。令和4年度は、当初の研究計画に沿って、(1)急性期の血管内イベントに対する細胞外機能分子の作用機序解析を目的に、これらの機能発現に至る経路を分子レベルで確認する予定である。急性期病態の生体反応と患者予後に直接かかわる作用点への影響を実証的に解析することは、基礎と臨床の両面で十分な意義がある。「果たして、単球表面結合能により見出した細胞外機能分子は、組織中の貪食細胞に作用し、死細胞除去とそれに続く炎症応答調節を制御するのか?善玉なのか?あるいは悪玉なのか?それらの制御は治療につながるのか?」ということを念頭に、急性期病態におけるイベントとの関わりを探る。
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