前年度までに紙製神経剤検知デバイスの基本的な流路構成を確立したため、今年度は引き続き周辺技術に関する検討を行った。紙デバイスの保存方法については、乾燥材を封入したアルミ製袋に密封した上で加速劣化試験のための長期加温保管を行った結果、長期の保管を行ったサンプルの一部で展開速度の低下がみられた。ブロッキング剤の牛血清アルブミン(BSA)が変性して疎水性が増加したことにより流速が低下した可能性が考えられたため、BSAの濃度について検討を行い、機能的に必要となる最低濃度を見いだした。その条件で製造した場合に長期保管後も展開速度が低下しないことの確認を引き続き行っている。前年度に最適化したろ紙へのアプライ方法については、種々の条件で一定期間保管したろ紙上に残存するアセチルコリンエステラーゼの活性測定を行い、最適化した結果を定量的に裏付けるデータを取得した。紙デバイスを収納するハウジングの形状について、3Dプリンターを用いて試作品をいくつか作成し、ろ紙とハウジング底面との接触状況が展開速度に影響することが判明した。現場の難揮発性神経剤をサンプリングするためのデバイスについて検討を行い、緩衝液入りの綿棒キットが有効であることを見いだし、それを用いた場合の最低検出限界を求めた結果、実用上有効な値であった。 研究期間を通して、これまで現場検知が困難であった微量の難揮発性神経剤(VXやノビチョクなど)について、現場で簡便かつ安価に検知できる紙製流体デバイスを開発し、さらに検討を進めることで、数年以内の実用化への道筋をつけることができた。
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