研究実績の概要 |
研究1:トラネキサム酸が外傷初期の凝固線溶系への影響を傾向スコアマッチング手法で解析した。仮説:トラネキサム酸が線溶系を抑制してフィブリン血栓の早期溶解を防ぎ外傷初期の出血を減少させる。対象と方法:前向症例登録大規模外傷レジストリのサブグループ解析であり、ISS>16の重症外傷276症例を対象とした。症例を傾向スコアマッチさせたトラネキサム投与群と非投与群に分類して、救急初療室搬入直後(0h)と3時間後(3h)の凝固線溶系変化、および24時間後の輸血量と病院転帰を検討した。結果:トラネキサム酸はトロンビン産生に影響を及ぼさないがプラスミン産生を減少させ、フィブリン分解の指標であるFDP/D-dimer上昇を抑制したが24時間の輸血量は両群で有意差を認めなかった。 考察と結論:トラネキサム酸はプラスミン産生を抑制してフィブリン分解を防ぐが、その他の交絡因子が影響して24時間の総輸血量に差を認めないと考えられた。 研究2:アンチトロンビン(AT)と外傷性DICの関連を検討した。仮説:ATは外傷性DIC発症とその予後に関連する。対象と方法:前向き症例登録大規模外傷レジストリのサブグループ解析であり、ISS>16の重症外傷275症例を対象とした。症例をAT活性>80%とAT<80%の二群に分け、ATの搬入後24時間のDIC発症と病院死亡への影響を検討した。結果:搬入時AT活性値はDIC発症の独立した予測因子であり、その活性値の低下に伴いトロンビン産生が増加した。AT活性値はDIC症例の多臓器不全および病院死亡の独立した予測因子でもあり、曲線下面積 0.725, 95%CI (0.613-0.838), cutoff 72.5%で病院死亡を予測できた。 結論:AT活性値の低下はDICの悪化により外傷症例の予後不良に関連している。
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