研究実績の概要 |
感染症に対する宿主の制御不能な生体反応に起因する敗血症は、過剰な炎症と血液凝固の活性化と血管内皮障害を伴う臓器障害を呈する。本研究では敗血症モデルマウスおよび培養細胞を用いて血管内皮細胞の転写共役因子Yes-associated protein (YAP)を標的とし、その活性化を制御することで血管機能と臓器障害が改善できるか検証を行ってきた。 初年度では、エンドトキシン腹腔内投与モデルとヒストン静脈内投与モデルを用いてバイタルサインの解析、臓器障害と血管透過性の亢進の確認を行い、敗血症様症状を呈するか確認した。次年度では、敗血症モデルマウスから摘出した肝臓、肺、腎臓におけるYAPの活性化を免疫染色法にて解析したが、実験手法のリミテーションにより評価することが出来なかった。そのため、in vitro培養血管内皮細胞を用いて、細胞にエンドトキシン、ヒストンを添加し、YAPの活性化について核移行を指標に評価した。その結果、いずれの炎症刺激でも血管内皮細胞のYAPが活性化することを示唆する結果を得た。 今年度ではYAPの活性化を精査するため、LPS刺激後の経時的なYAP1蛋白とリン酸化YAP1蛋白の発現量をウェスタンブロット法で評価した。刺激後、YAP1蛋白は増加傾向を、リン酸化YAP1蛋白は減少傾向を示した。さらにYAP1の標的遺伝子mRNAの発現量を解析し、YAP1の転写因子活性を評価した。その結果、LPS刺激によってCYR61, Nrf2の発現亢進が見られた。また、YAP1を阻害することで炎症関連遺伝子の発現が低下するなど血管内皮障害を改善する可能性が示された。これらの結果から、LPSによる血管内皮細胞の炎症活性化にYAP1活性化が部分的に関与すると考えられ、YAP1の活性化を制御することで敗血症時の血管炎症を抑制できる可能性が示唆された。
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