研究課題/領域番号 |
20K09288
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西原 正章 九州大学, 大学病院, 助教 (70641017)
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研究分担者 |
篠原 啓介 九州大学, 医学研究院, 助教 (30784491)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 敗血症 / 慢性腎臓病 / 交感神経系 |
研究実績の概要 |
臓器障害を伴う生命を脅かす感染症である敗血症は、一般的に過剰な交感神経活動の亢進状態を引き起こす。慢性腎臓病(chronic kidney disease; CKD)を合併する敗血症の予後は不良であるが、その治療方法は存在しない。近年、臨床研究により敗血症に対しβ遮断薬の有効性が示された。CKDを合併した敗血症では交感神経系の活性化がより深く関与し、β遮断薬等による交感神経系の抑制が新たな治療戦略になる可能性を秘めている。そこで、本研究の目的はCKDを合併した敗血症に対する交感神経系の抑制が、臓器障害やその予後を改善し得るかどうかを明らかにすることである。 令和2年度はまず、慢性腎臓病を合併した敗血症疾患モデルを確立する必要があった。動物種は雄性SDラットを用いた。慢性腎臓病のモデルとしては腎梗塞術(選択的腎動脈結紮)を用いた。また、敗血症モデルとしてはよりヒト敗血症の病態に近い盲腸結紮・穿刺術(cecal ligation and puncture;CLP)を行った。腎梗塞の範囲および盲腸結紮の範囲を様々に試みることにより、今回の実験系に適切な疾患モデルの確立を行った。 続いてこの疾患モデルの交感神経活動の経時的評価を行うために、心電計テレメトリーを用いた。心電図記録の1心拍毎のR-R間隔は複雑に変動しており、様々な速さの波が合わさって1つの波形を形成している。この複雑な波形から、主にゆっくりとした波(低周波数帯)と速い波(高周波数帯)に分離し抽出することで、視覚的かつ数値化して波形の特性を表現する方法を周波数解析とよぶ。低周波数帯(LF)と高周波数帯(HF)パワーの比(LF/HF比)は自律神経バランスの指標を表し、今回この手法を用いて慢性腎臓病を合併した敗血症の経時的な交感神経活動の評価を行った。これらの評価の結果は現在データを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は当初より雄性SDラットを用いて慢性腎臓病を合併した敗血症疾患モデルの確立に取り組んだ。慢性腎臓病モデルとしては以前より手技を確立させていた腎梗塞術(選択的腎動脈の結紮による)を用いた。また、敗血症モデルとしてはよりヒトの敗血症の病態に近いと考えられている盲腸結紮・穿刺術(cecal ligation and puncture;CLP)を行った。これにより腹膜炎病態モデルを作成した。CLP術において盲腸の結紮部位と生存率との関連性が知られており、今回様々に結紮部を変えることにより適切な疾患モデルの確立に努めた。 具体的には、今回の実験では慢性腎臓病を合併する敗血症の病態に対し薬剤(β遮断薬)や中枢神経系への介入の効果を明らかにするため、疾患モデルを確立した後もある程度の期間(1週間程度)生存していることが必要であった。そこで、慢性腎臓病のモデル作成に片腎のみの梗塞、5/6腎梗塞などに分類、その上で敗血症の病態作成に盲腸結紮部位を様々に変える試みを行った。 一方で交感神経活動の経時的な評価を行うために、心電計テレメトリーを用いた。心電計テレメトリーを安定して体内に植え込み、測定できるよう手技的な安定性を得るまでに時間を要した。 これらの経過により疾患モデルの確立に時間を要したが、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては以下を考えている。 ① 慢性腎臓病を合併した敗血症モデルにおける交感神経活動亢進の経時的な評価(心電計テレメトリーによる心拍変動解析を進めていく)。 ② 確立した疾患モデルにおいてβ遮断薬を全身投与することによる臓器障害、生存率などへの影響を検証する。β遮断薬投与のタイミングとして敗血症発症前段階、発症直後、発症数日後などに分けて評価する。 ③ 本研究の疾患モデルにおける脳内・中でも交感神経活動を主に司る視床下部室傍核や頭側延髄腹外側野における興奮性・抑制性アミノ酸、及び酸化ストレス・一酸化窒素 (nitric oxide; NO) を始めとする各種調節機序の変化と交感神経活動の関係性を評価する。 ④ 上記疾患モデルにおける脳室腔への薬剤投与、PVNへの遺伝子導入による酸化ストレスの抑制、または腎除神経術が中枢神経系における調節系、また交感神経活動へどの様な影響を与えるかを評価する。 ⑤ 中枢性交感神経活動に対しての治療介入が臓器障害や生命予後に与える影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の本研究を遂行するにあたり、慢性腎臓病を合併した敗血症疾患モデルの確立に当初の予定より時間を要したこと、および交感神経活動の経時的な評価目的に心電計テレメトリーを用いる方針として、その手技的安定性を得るのに時間を要した。以上の経過より、確立した疾患モデルに対しての薬剤投与実験などが現在まだ実行できていない。その様な経緯より、次年度使用の助成金が生じることとなった。 令和3年度においてはこれら次年度使用となった助成金を合わせて用いることにより、各種薬剤の新規購入、各種実験機器の購入を行い、更なる研究を推進していく予定である。
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