臓器障害を伴う生命を脅かす感染症である敗血症は、一般的に過剰な交感神経活動の亢進状態を引き起こす。慢性腎臓病(chronic kidney disease; CKD)を合併する敗血症の予後は不良であり、交感神経系の活性化がより深く関与している可能性がある。本研究はCKDを合併した敗血症に対する交感神経系の抑制が、臓器障害やその予後を改善し得るかどうかを明らかにする。 CKD病態モデル作成に雄性SDラットを用いて腎梗塞術(選択的腎動脈結紮)を実施した。また、敗血症の病態モデル作成に盲腸結紮・穿刺術(cecal ligation and puncture;CLP)を実施した。交感神経活動の評価は心電計テレメトリーから得られた心電図記録の周波数解析による低周波数帯(LF)と高周波数帯(HF)パワーの比(LF/HF比)を評価した。 結果、CLP実施後早期よりLF/HF比の有意な増加を認め、感染早期より交感神経活動が活性化していた。一方、CLP実施後の臓器障害やLF/HF比の増幅反応は、CKDモデルラットにおいて非CKDモデルラットと比較して増強していた。以上の成果よりCKDを併存する敗血症においては、臓器障害の増悪に過剰な交感神経活動の活性化が関与している可能性が示唆された。 令和4年度はCKD併存敗血症の過剰な交感神経活動活性化機序として、中枢神経系のミクログリアに着目した。免疫組織化学染色法の結果、CKD併存敗血症の脳内ミクログリア、および神経細胞は著明に活性化していた。ミクログリア活性化抑制剤ミノサイクリンを脳室内に微量持続投与後にCLPを実施し敗血症を誘発すると、交感神経活動の増強反応および臓器障害は抑制された。これらの結果よりCKD併存敗血症の病態形成において、ミクログリア活性化を介した中枢神経系由来の交感神経活動活性化が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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