救急診療における中毒症例は、医薬品や一酸化炭素、有機リンなどの農薬、炭化水素等の工業品による死亡事例が多い。これら中毒に続く炎症応答は、生体防御機構のみならず、組織再生機構の起点になるもので、この炎症応答をコントロールすることが、救急症例の対応に重要である。申請者等は長年、細胞内シグナル伝達に関わる酵素ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)ファミリーの生理機能の解析に従事し、様々な疾患モデルを用いて病態との関連性を追求してきた。これまで、DGKアイソザイムのうちイプシロン型DGK(DGKε)は、炎症応答においてリポポリサッカライド(LPS)投与によるエンドトキシン刺激に反応して一過性に転写亢進を起こすことを明らかにしてきたさが、TLR受容体を介する自然免疫におけるDGKεの機能的役割は未だ不明である。一連の研究により、LPS投与によるエンドトキシンショック動物実験炎症応答モデルにおいて、DGKε-KOマウスではLPS投与によるNF-kB転写活性が抑制されていることを明らかにしてきたが、本年度は腹腔内LPS投与によるエンドトキシンショックの動物モデルの肝臓を形態学的に解析した。その結果、野生型マウスの肝臓では、中心静脈周囲の肝細胞におけるiNOS発現誘導が顕著に増加していたが、DGKε-KOマウスでは、この領域におけるiNOS発現は上昇せず、その結果NO産生を介する肝細胞障害が抑えられていると推測された。
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