研究実績の概要 |
急性呼吸促迫症候群(ARDS)は急性炎症に伴う血管透過性亢進を特徴とする予後不良の症候群であるが、その分子メカニズムはいまだに解明されていない。近年、ARDSを含む急性炎症性疾患とエピジェネティクスの関係についての報告が続いている。その中で、ヒストンメチル化酵素SETDB2がARDSモデルマウスの肺において発現上昇していることを我々は明らかにした。そのARDS肺におけるSETDB2の発現は主にマクロファージと血管内皮細胞に認められたことから、各々の細胞で特異的にSetdb2を欠損させたマウスを用いてARDSモデルを作製し経時変化を確認したところ、血管内皮細胞特異的にSetdb2を欠損させたマウスでARDSの悪化(組織炎症の増悪、肺水腫の悪化)を認めた。ARDSの病態の中心は血管透過性亢進には、グリコカリックスの崩壊など様々な機構が関与しているが、SETDB2は血管内細胞のアポトーシスに関与していることが血管内皮細胞特異的Setdb2欠損マウスのTUNEL染色の解析から明らかとなった。さらにアポトーシス関連遺伝子の中からSETDB2の標的遺伝子を網羅的に解析した結果Tnfrsf10bが関与することが明らかとなった。以上の結果より、ARDSにおいて血管内皮細胞で発現上昇するSETDB2はTnfrsf10bの発現制御を介してアポトーシスを抑制し、病態悪化を防いでいることが示唆された。本研究結果は集中治療分野の国際雑誌SHOCK誌(Sonobe et al., Shock, 2023,60:137)に掲載された。
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