研究課題/領域番号 |
20K09316
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研究機関 | 湘南医療大学 |
研究代表者 |
平林 敬浩 湘南医療大学, 臨床医学研究所, 研究員 (40297015)
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研究分担者 |
竹ノ谷 文子 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (30234412)
RAKWAL RANDEEP 筑波大学, 体育系, 教授 (70590850)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | PACAP / PAC1受容体 / 神経細胞死 / 虚血 / 遺伝子ノックアウトマウス / 神経前駆細胞 |
研究実績の概要 |
下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド (Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide, PACAP)は主に神経組織で発現しており、生体内では下垂体ホルモン分泌、血管拡張、平滑筋収縮、アドレナリン分泌、インシュリン分泌、免疫抑制作用、涙液や汗など外分泌促進作用等、非常に多くの機能を担っている。さらに近年、脳虚血・脳梗塞モデル、脊髄損傷モデルといった神経傷害モデル動物を用いた研究結果から、PACAPは、その3種の受容体 (PAC1受容体, VPAC1受容体, VPAC2受容体)のうちPAC1受容体を介して神経細胞死を抑制し、脳虚血などで傷害を受けた神経の機能を回復することが明らかになっている。しかし、その詳細な分子制御機構は明らかになっていない。そこで、本研究では、脳虚血によって引き起こされる神経細胞死に対するPACAPの細胞死抑制作用の分子調節機構の解明を目的とし、受容体遺伝子ノックアウトマウス、特異的阻害剤等を用いた研究を行い、将来的に虚血性神経細胞死を防御することが可能な新規予防治療薬の開発を目指す。 当該年度は前年度までに作製したPAC1受容体遺伝子ヘテロ欠損マウス同士の交配で得られた野生型マウス、およびPAC1受容体遺伝子ホモ欠損マウス、それぞれの胎仔より前脳を採取して神経前駆細胞の単離培養をした。その結果、野生型マウス、PAC1受容体遺伝子ホモ欠損マウス、それぞれ神経前駆細胞間の増殖速度はPAC1受容体遺伝子ホモ欠損マウス由来細胞の方が遅い傾向が認められた。この結果はPAC1受容体遺伝子欠損により神経前駆細胞が細胞死に至りやすいことが起因している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は2021年4月に湘南医療大学へ異動したが、動物飼育施設が稼働していなかったため、当初予定していた動物実験等をほとんど行うことができなかった。そのため動物を用いた実験において遅れが生じており、現在までは主にin vitroの解析が中心となっている。 本研究ではまずin vitroで動物個体での虚血を再現できるニューロン・グリア共培養系を用いた予備実験を行った。ニューロン・グリア共培養細胞に対し、低酸素低グルコース負荷(Oxygen Glucose. Deprivation:OGD)処置を行ったところ、生細胞数は大きく減少した。このOGD処置の際にPACAPを添加すると生細胞数は回復したが、PACAPと共にPACAP受容体の1種であるPAC1-Rのアンタゴニストを添加した際には、PACAPによる細胞死の抑制は認められなくなった。 また、CRISPR/Cas9システムを用いてPAC1受容体遺伝子改変マウスを作製し、PAC1受容体遺伝子ヘテロ欠損マウス同士の交配したところ、PAC1受容体ホモ欠損マウス出生数はメンデル比に比べて少ない傾向が認められた。このことはPAC1受容体遺伝子の欠損は胎生致死、あるいは生後まもなくの死亡を引き起こす傾向がある可能性を示唆している。また、PAC1受容体遺伝子ヘテロ欠損マウス同士の交配で得られた胎仔より前脳を採取して神経前駆細胞の単離培養をしたところ、得られた野生型マウス、PAC1受容体遺伝子ホモ欠損マウス、それぞれ神経前駆細胞間の増殖速度に有意差は認められなかったが、 PAC1受容体遺伝子ホモ欠損マウス由来細胞の方が遅かった。上述のように、 PAC1-R遺伝子の欠損は胎生致死、あるいは生後まもなくの死亡を引き起こす可能性があることから、 PAC1受容体遺伝子欠損により神経前駆細胞が細胞死を引き起こしている可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに得られた結果から、PAC1受容体遺伝子はPACAPの神経細胞死抑制作用に関与していることがin vitroで確認することが出来た。 今後は前年度までに行ったニューロン・グリア共培養系、および神経前駆細胞の単離培養で得られた知見を基にし、虚血モデルマウスに対して各種シグナル伝達分子の阻害薬等を用いた実験を行うことで動物個体レベルで確認する。このin vivo実験を行うことで、虚血に対するPACAPの神経保護作用の分子機構、さらには神経保護作用を有する治療薬開発につながる新たな標的分子の発見が出来ることが期待できる。 また、本研究課題でに作成したPAC1受容体ノックアウトマウスは、胎生致死、あるいは生後まもなくの死亡を引き起こす傾向があること、また将来的な活用を考慮してCre発現依存的に遺伝子をノックアウトできるようにCRISPR/Cas9系を用いてloxP配列を挿入したPAC1受容体遺伝子コンディショナルノックアウトマウスの作製を計画している。さらに、本研究を進めることでPACAPによる神経細胞死抑制作用においてPAC1受容体の下流で寄与する分子が同定できた際にはその遺伝子についてもノックアウトマウスを作製する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者は2021年4月に星薬科大学から湘南医療大学へ異動したが、研究施設、特に動物飼育施設が稼働していなかったため、当初予定していた動物実験等をほとんど行うことができなかった。そのため、当初購入を予定していた実験動物の購入費や試薬類の購入が少なくなった。また新型コロナ禍による学会の中止等で旅費が不要となった。これらの費用は次年度以降に計画しているin vivo実験、およびPAC1-R遺伝子コンディショナルノックアウトマウス作製の費用に充てる。
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