研究課題/領域番号 |
20K09318
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
植木 隆介 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (10340986)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / ミトコンドリア機能低下 / 筋肉細胞 / Mitophagy / Autophagy / 熱傷 / 麻酔薬 / サルコペニア |
研究実績の概要 |
低栄養状態の骨格筋の細胞培養モデルとして、マウス骨格筋芽細胞C2C12細胞を継代培養して、10%FBS(ウシ胎児血清)添加DMEMの培地の交換頻度や濃度(通常と1/2)を2日から、3日、5日、7日間に変化させた状態で、細胞増殖の状態を観察した。 さらに、骨格筋への分化誘導を行うために、2%HS(ウマ血清)添加DMEM培地による交換頻度や濃度を上記の如く変化させ、細胞の形態及び骨格筋への分化の状態を顕微鏡画像的に撮影、検討した。その結果、細胞の低栄養(培地の交換頻度低下や濃度低下)に伴い、骨格筋の細胞増殖や分化速度の減速・分化不良が形態学的に観察された。細胞実験モデルにおける筋肉細胞の低栄養状態、いわゆるサルコペニアモデルの評価モデルとして使用できることが考えられた。 そこで、次の段階として、ミトコンドリア膜電位を定量する色素(JC-1)を用いて、C2C12の筋芽細胞・骨格筋への分化途中の細胞を染色し、定量評価を行っている。さらに、このような細胞にミトコンドリアの脱共益剤(CCCPなど)を加え、ミトコンドリアに障害を与えることで、その形態学的な変化や膜電位の変化・低下を確認する実験を行っている。これにより、低栄養・サルコペニア状態でのさらなる熱傷や敗血症などのダメージが加わったときに、惹起されるMitophagy(ミトコンドリアのAutophagy)障害モデルが作成でき、そこで各種の薬剤(Coenzyme Q10など)の治療効果を検討することにつなげたいと考えている。 これらの過程で生じるミトコンドリア障害から細胞死に至る過程の変化を、アポトーシスApoptotic・ネクローシスNecrotic・生存細胞Healthy Cellsを分別する染色キットを用いて、顕微鏡での蛍光観察法で確認し、データを収集中である。その他、アルコールのC2C12細胞の障害モデルを作成、データを収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
立案時の計画に基づき、大学内の共同研究施設で細胞培養を継代しながら、実験を行っている。昨年の一年間は、日常臨床においても、想定外の感染症対策への配慮も必要となり、実験に集中できたとはいいがたいが、利用可能な時間を有効に使えるようにと心がけて、継続的に実験に取り組んでいる。低栄養・ミトコンドリア障害の細胞モデルとしては、他の細胞系でも再現性が得られればと考えて進めている。すなわち、C2C12細胞以外にも、神経細胞系の実験モデルとなりうるPC12細胞も培養を開始・継続して、上記のC2C12細胞で認められた実験結果が他の細胞系においても認められるかを検証するべく、取り組んでいる。その結果、低栄養の環境下(培地交換・培地濃度による)では、同様の死細胞の増加や細胞増殖能の低下が認められ、同様の兆候が得られている。これらについても、筋肉細胞と神経系細胞モデルの違いがあるかを知ることは、全身を構成する体細胞の一端を知ることになるため、参考にしたいと考えている。サルコペニアモデルとしての低栄養下の細胞培養での実験とさらなるミトコンドリア障害を人工的に与えた場合の変化については、培養細胞では、繰り返しの実験が可能であり、細胞のアポトーシス・ネクローシス・生存(健常)細胞の染色色素を用いて、顕微鏡的観察やフローサイトメトリーによる評価ができるため、これらの検討を続けて、結果をまとまられるように実験を重ねて学会発表や論文作成につなげていきたい。その他、細胞内の活性酸素を分解する酵素であるSOD(Superoxide dismutase)の活性低下は、細胞死やミトコンドリア障害との関係があるとされ、興味を持っている。同細胞モデルにおいて、SODの変化が認められれば、ミトコンドリア障害から、アポトーシス、細胞死が増加する流れが推測され、蛍光染色キットを用いて測定を行うべく準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている実験を継続して、結果をまとめ、学会発表を行いたい。同時に、骨格筋細胞の低栄養モデルすなわちサルコペニアの細胞モデルにおいて、各種のストレス・ダメージ(具体的には脱共益剤CCCPなどのミトコンドリア障害)によって生じる2次的障害のモデル作成を目指す。すなわち、熱傷患者などのICU長期管理による筋消耗・二次性サルコペニアの患者に生じる感染症などの病態において、起こると予想されるMitophagy機能障害について検討する。上記の実験モデルを用いて、ミトコンドリア膜電位の低下やアポトーシス細胞の増加、SOD(Superoxide dismutase)の活性低下などの多角的な所見が認められ、仮説を支持するような所見が得られるか、試行錯誤を重ねながら、実験を継続していきたい。 そのうえで、障害ミトコンドリアが出す活性酸素ROS(reactive oxygen species)をQuench(急速冷却・収束させる)するような抗酸化物質(Vitamin C, グリチルリチンなど)の効果を検討したい。 またMitophagy障害を生じるメカニズムとして、事前に仮説を立てている微小管(microtubule)形成に関与するチューブリンの免疫組織染色による形成・形成障害の確認や形成促進に作用する薬剤(タキソールなど)の効果・影響についても確認していきたい。その他、Autophagy、Mitophagy関連シグナル蛋白(LC3、Parkin、PINK1など)についてもAutophagy、Mitophagy検出試薬やWestern blotなどで確認していく。 当初の計画で、2年目以降に予定していた熱傷マウスを用いた動物実験についても、3R(Replacement・Reduction・Refinement)に配慮しながら、実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、当該年度の所要額と実支出額の差額であり、次年度の経費として有効に使用いたします。研究に必要な細胞培養用dishや培養液、ピペットなどの消耗品、ミトコンドリア蛍光色素を始めとする試薬、実験動物(マウス)の購入費などの使用を予定しています。
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