研究課題/領域番号 |
20K09334
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
廣瀬 雄一 藤田医科大学, 医学部, 教授 (60218849)
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研究分担者 |
中江 俊介 藤田医科大学, 医学部, 講師 (20622971)
佐々木 光 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70245512)
大場 茂生 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (80338061)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膠芽腫 / DNAメチル化剤 / 薬剤耐性 / DNAミスマッチ修復 |
研究実績の概要 |
グリオーマの薬剤耐性機構を解明するために、細胞株U87MGを低濃度のDNA メチル化剤 temozolimide (TMZ)で反復処理することで同剤に対する耐性細胞株を複数分離した。我々の得た全ての耐性株ではDNA修復酵素O6-methylguanine methyltransferase(MGMT)の発現は認められず、他の機序の関与が大きいと考えられた。細胞周期制御を解析したところ、これら耐性株の中にはTMZ処理に対して一時的なG2期細胞周期停止を示すものと、全く細胞周期停止を示さないものとに大別されることが判明した。後者を真の薬剤耐性株と評価したが、これらの細胞株においてはTMZ処理後の致死的DNA障害を誘導するDNAミスマッチ修復機構(MMR)が欠如することによってTMZの毒性が発揮されない状況が疑われ、全ての株においてGTミスマッチの修復に関与する因子であるMSH6タンパクとMLH1の発現が低下していた。これらMMR異常株においてはG2チェックポイントの活性化は完全に欠如していたが、G2チェックポイント機構に関与するキナーゼ群の発現は保たれているにも関わらず、様々なチェックポイントタンパクの阻害剤によるTMZへの再感受性化は認められなかった。以上より、グリオーマ細胞のTMZ耐性獲得はMMR異常によって惹起され、その再感受性化を細胞周期制御を標的としたアプローチによって得ることは困難であるとの結論に至った。今後、膠芽腫に対する新規化学療法を考える上ではTMZによる治療を繰り返す前に強力な治療を加えることが腫瘍進行の抑制に貢献すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MSH6を中心としたミスマッチ修復(MMR)蛋白の発現低下の機序を探ることは今後の悪性脳腫瘍治療法開発の上で重要な課題である。DNA不安定性が強いと考えられる耐性株が長期培養において安定して増殖を継続でき、形質変化を起こさないことは検証・確認ができ、またMMR遺伝子のコピー数減少がないことも示されたが、どのような機序によって遺伝子発現が抑制されていることが蛋白発現低下につながっているかが不明である。薬理学的なDNAアセチル化抑制剤やDNAメチル化抑制剤ではMMR蛋白の発現回復は認められなかったが、複数の同系薬剤による十分な検証には至っておらず、実験を繰り返している。
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今後の研究の推進方策 |
ミスマッチ修復(MMR)蛋白の発現低下の原因がプロモーター領域のアセチル化またはメチル化であることは理論的に可能あり得ることで、十分な検証が必要である。今後もこの仮説についての回答を得るための実験を継続する。また、DNAメチル化剤に対する体制を獲得した細胞が、他の化学療法剤 (主にDNA架橋剤)に対しても交差態勢を持つかどうかも検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験作業の遅れにより予想していたよりも試薬購入費が少なくなった。次年度に残された実験を行うことで消費される見込みである。
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