研究課題
悪性度の高いグリオーマは、治療後にかならず再発し、平均余命は約1年である。グリオーマは強い浸潤能がある。腫瘍細胞は脳の正常部位に深く染み渡り、外科手術では全摘出できない。さらに化学療法と放射線治療の集学的治療を行っても、治療抵抗性をもつがん幹細胞が増殖をくりかえす。再発の根源である、がん幹細胞に作用する薬物が開発できれば、根本的な治療法となることが期待される。我々は、グリオーマ、転移性脳腫瘍、および肺癌由来のがん幹細胞に共通して、一過性受容体電位型チャネルの一種であるムコリピンが発現していることを発見した。そして、ムコリピンの遮断薬の中から、がん幹細胞を2日間で死滅させる薬物を見いだした。ムコリピンの遮断薬を、細胞増殖アッセイ法を用いてスクリーニングし、がん幹細胞を死滅させることができる14種類の薬剤を同定した。そのうちの3種類の薬剤とムコリピンとのドッキングを教師データ(機械学習)としたインシリコスクリーニングにより、化合物ライブラリーの200万より998種類の候補化合物を抽出した。阻害効果予測値の高かったトップ100化合物の中から、31種の新規薬剤について化学合成に成功し、そのうち7種の薬剤がグリオーマ、転移性脳腫瘍、および肺癌から樹立したがん幹細胞の増殖を減退させた。うち1種が終濃度100 nMで、有効性を示した。NMRを用いて、新規薬剤の化学構造を決定した。この新規薬剤は、がん再発および遠隔転移の予防薬に発展する可能性が高い。
1: 当初の計画以上に進展している
グリオーマ、肺癌、および肺癌脳転移巣に存在するがん幹細胞に対して、選択的かつ有効性の高い抗癌剤およびその基本化学構造を開発した。新規化合物について、特許を出願した。
新規化合物について、細胞増殖アッセイ法を用いて最適化する。また、脳腫瘍モデル動物における有効性をマウスの生存期間で評価する。
予定よりも少ない試薬を用いて効率よく実験を遂行できたため、次年度使用額が生じた。消耗品費(培養関連と動物実験)に充当する。
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
Nature communications
巻: 12(1) ページ: 2074
10.1038/s41467-021-22205-0.
Biochemistry and biophysics reports
巻: 25 ページ: 100912
10.1016/j.bbrep.2021.100912.
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