希少がん、かつ難治性がんである膠芽腫は生存期間が15か月であり、根治療法はない。膠芽腫は脳の正常部位に浸潤するため、外科手術での全摘出は難しい。膠芽腫に対する唯一の既存薬である、テモゾロミドの有効性は十分ではなく、新たな化学療法剤の開発が望まれている。がんの発生かつ治療抵抗性の根源として、がん幹細胞の存在が提唱されている。そのため、がん幹細胞をターゲットとした治療法の開発が世界中で行われている。我々は、膠芽腫、転移性脳腫瘍、および肺癌由来のがん幹細胞の増殖を減退させる新規化合物(K3)を創出した。細胞増殖アッセイを用いて、K3の類縁体から有効性が高い化合物(K84)を見いだした。また、K3とムコリピンチャネルとのドッキングを機械学習させたインシリコ・スクリーニングにより、新規化合物(K98)を創り出した。さらに、K84とK98の組み合わせから19化合物を合成し、50%効果濃度が50 nMの新規化合物(K110)を創り出した。膠芽腫モデルマウスにおいて、これら新規化合物の有効性試験を行った。免疫不全マウスの頭蓋内にグリオーマ由来のがん幹細胞を接種した。移植後7日目から、ゾンデを用いて、被験薬を5日間連続で経口投与し、有効性を全生存期間(Kaplan-Meier曲線)で評価した。統計解析は、Gehan-Breslow-Wilcoxon検定にて行った。被験薬は、体重1 kg あたり5 mgとなるように0.5 w/v%メチルセルロース400溶液に調整し、1日に1回投与した。K3は生存日数(中央値27日)をプラセボ群(中央値18.5日)より有意に延長させた。また、新規化合物K3について、安定化試験を行った。6か月間、室温保存した後、実験に供した。膠芽腫モデルマウスに対する有効性は保持していた。以上の結果から、K3はグリオーマの治療に有効であると考えられた。
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