研究課題/領域番号 |
20K09345
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
岩間 亨 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (20303498)
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研究分担者 |
江頭 裕介 岐阜大学, 医学部附属病院, 講師 (50547677)
中山 則之 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (30444277)
榎本 由貴子 岐阜大学, 医学部附属病院, 講師 (20377659)
松原 博文 岐阜大学, 医学部附属病院, 助教 (00800244)
庄田 健二 岐阜大学, 医学部附属病院, 医員 (00866981)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クモ膜下出血(SAH) / 白質傷害 / マウスSAHモデル |
研究実績の概要 |
実臨床例において、クモ膜下出血(SAH)発症後急性期から慢性期までの白質傷害を証明するため、当施設で破裂脳動脈瘤患者に対しコイル塞栓術を行った連続症例を対象とし引き続き検討を行っている。Preliminaryなデータではあるが、SAHにおける慢性期の白質傷害の証明と、背景因子が一部示唆される結果が得られている。また、白質傷害は特に、臨床的に軽度の後遺症(modified Rankin Scale 1, 2)を呈する群で顕著であり、SAH後の高次機能低下、認知機能低下との関連性が示唆される結果であった。現在まで症例数は順調に蓄積され、白質体積を定量可能なソフトウエアを用い、より精密な白質体積の計測を行っている。 マウスSAHモデルを用いた基礎実験では、これまでの予備検討、発表論文と同様に、SAHより回復した動物では粗大な神経症状は見られなかった。一方で、SAH発症慢性期に自発性の低下や、短期記憶障害を呈する動物が確認できた。これらの変化の発症率は30%程度であり、ヒトでの実臨床での印象と一致するところは非常に興味深いが、個体差が大きく、また変化自体は軽度であることが多いため、今後の白質傷害をターゲットとした病理学的検討、更なる詳細な神経評価が必要であろうと考えられる。 In vitroでの実験系として、ヒト脳微小血管内皮細胞を用い、低酸素負荷、トロンビン処置を行うことで微小血管SAHモデルを確立した。本in vitro系を用い、微小血管におけるmatrix metalloproteinase-9(MMP-9)活性上昇、lipocalin 2(LCN2)の発現上昇の有無について検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究結果の概要」に示した実臨床例を用いた検討については、症例数は順調に増加しており、更なる解析の進展に伴い新たな知見が得られるものと考えられる。白質傷害の定量性をより高めるため、臨床例においてMRIでのパラメータ(白質全体の体積の測定やdiffusion tensor imagingを用いた白質神経線維の可視化など)を追加し検討を加える。SAH後慢性期の臨床神経学的評価バッテリー臨床例におけるバイオマーカーの探索については昨年より引き続き、脳脊髄液、血液を用いたmatrix metalloproteinase-9(MMP-9)活性およびlipocalin 2(LCN2)の定量的評価法の確立を試みている。この面での進捗状況はやや遅れている。 動物モデルを用いたSAH後の一次脳損傷のメカニズムの探求や、一次脳損傷によって引き起こされる慢性期行動異常、認知機能低下の検討は概ね順調に経過しており、慢性期の神経症状に着目した研究成果を現在国際誌に投稿、受理されている(Matsubara H, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis 2021)。また、ヒト脳微小血管内皮細胞を用い、低酸素負荷、トロンビン処置を行うことでin vitroでの微小血管SAHモデルを確立した。この系を用いたSAH後の微小血管保護療法の可能性について、国際誌に投稿、受理されている(Matsubara H, et al. J Pharmacol Res 2022)。
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今後の研究の推進方策 |
臨床例での検討においては、引き続き症例の蓄積を進める。MRIなどのimaging modalityを用いた白質傷害の可視化については、予定通りの研究の進展が期待できるものと考えている。やや進捗の遅れているバイオマーカーの同定であるが、例えば有力な候補である脳脊髄液中のMMP-9活性については、現状最も信頼性の高い評価方法はゼラチンザイモグラフィーであるが、半定量的評価であること、対照群としての非SAH症例での検体を得ることが倫理面、侵襲性から困難であることより、既存のリコンビナントを用いた活性の定量化や、症例毎の経時的変化を測定することで症例間での客観的な比較検討方法の確立を試みる。また、in vitro系において、MMP-9, LCN 2の有力な分泌元と考えられる微小血管内皮細胞を用いこれらの活性上昇の有無を確認し、薬剤による制御の可能性を探る。 動物モデルを用いた基礎検討においては計画通り、SAH後の白質におけるLCN2の発現とMMP-9活性の相関や、また本研究の仮説の一つである、LCN2発現と、LCN2によるMMP-9活性の制御のメカニズムの解明と、既存薬剤を用いたこれらの発現、活性化の制御による病理学的な白質傷害の軽減の可能性について検討する。SAH動物モデルにおける慢性期の軽微な神経症状は、実臨床でも注目すべき病態であり、程度や発生頻度、白質神経傷害との相関について解析、検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じているが、ほぼ予定通りであったと考えている。次年度も予定どおりに必要な消耗品及び学会・論文発表費用に使用する。
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