研究課題/領域番号 |
20K09373
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吾郷 哲朗 九州大学, 医学研究院, 准教授 (30514202)
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研究分担者 |
中村 晋之 九州大学, 大学病院, 助教 (80713742)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / ペリサイト / フェロトーシス / 組織修復 / 鉄 / 虚血再灌流 |
研究実績の概要 |
培養ペリサイトに,GPX4阻害剤でありフェロトーシス誘導物質であるRSL3を投与すると細胞死が生じ,この細胞死はferrostatin-1(フェロスタチン)によりrescueされたことから,ペリサイトにおいてフェロトーシスを生じうるものと考えられた.ペリサイトとともに微小血管を構築する内皮細胞にはこの現象は認められなかった.脳虚血時にペリサイトにおけるGPX4の発現が低下することを確認した.また,脳梗塞時,脳内で大量発生することが知られるアクロレインによってもペリサイトのフェロトーシスが生じることを明らかにした.一方,フェロトーシス誘導物質の一つと考えられている神経伝達物質・グルタミン酸ではペリサイトのフェロトーシスは生じなかった.ペリサイトはマクロファージとともに鉄を細胞内に取り込みやすい性質を有していると思われる.ペリサイトは非ヘム鉄の取り込みに関わるトランスポーターDMT1,トランスフェリン受容体,鉄排出に関わるフェロポーチンを高度に発現していた.培養ペリサイトでは,遊離鉄もしくはトランスフェリンの投与によって濃度依存性にフェロトーシスが生じることを明らかにした.この現象は,脳虚血を模倣する低酸素・低グルコース状態下で顕著に生じた。フェロトーシス阻害剤であるフェロスタチンの腹腔内前投与を3日間連続して行った後,マウスに一過性虚血・再灌流(90分)による脳梗塞を作製すると,脳梗塞内部において生存しうるCD13陽性ペリサイトの数は有意に増加していた.脳梗塞内部においてペリサイトのフェロトーシスが生じている可能性が示唆された.現時点で,フェロスタチン前投与による運動機能改善効果を示すことはできていないが,脳梗塞内部におけるペリサイトの生存は,組織修復・機能回復の是非を決定づける重要な因子であることが知られており,興味深い成果を得られつつあると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID19の影響もあり,とくに動物実験に関して遅延が生じた.細胞実験に関しては概ね順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞を用いた実験により,脳微小血管ペリサイトにおいてフェロートシスという現象が生じることはほぼ間違いのないことだと思われる.鉄代謝関連タンパク質の発現変化が重要な鍵を握っていると思われ,その分子機構についてさらに詳細な検討を進める.フェロトーシス阻害薬を用いることにより,脳虚血再灌流状態下において,ペリサイトのフェロトーシスが抑制され,その後の組織修復に有益な効果がもたらされる可能性を見出している.再現性を確認し,フェロトーシスが生じやすい脳虚血病態の同定とその分子細胞機序について詳細に検討したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響もあり,マウスを用いた動物実験の進展に若干遅れが生じたため.2021年度は計画的な動物実験を行い進行に遅れが生じないように留意する.
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