軟膜動脈側副血行が脆弱なCB17マウスに,中大脳動脈閉塞(90分)・再灌流を行い脳梗塞を作製し,フェロトーシス阻害薬UAMC-3203を腹腔内前投与して梗塞サイズや組織変化に対する効果を検討した.MAP2陰性領域で評価した1-3日目の梗塞サイズはUAMC-3203投与で影響はなかった.一方,CD13陽性細胞数で評価した梗塞内部におけるペリサイト残存は,UAMC-3203投与群で有意に多く,UAMC-3203によるペリサイト細胞死の抑制が示唆された.有意なペリサイトの残存により梗塞内線維化もUAMC-3203投与群で高度であり,7日目の梗塞サイズはUAMC-3203投与群で有意に縮小した. 抗酸化タンパク質GPX4の阻害剤であるRSL3を培養ペリサイトに投与すると,用量依存性に脂質過酸化物・分解産物であるマロンジアルデヒドが細胞内に蓄積し細胞死が誘導された.この細胞死はUAMC-3203によって抑制されたが,アポトーシス阻害剤やネクロプトーシス阻害剤では抑制されなかった.二価鉄を細胞外から投与すると,ペリサイト内における遊離二価鉄の蓄積,細胞死が誘導されたが,三価鉄やトランスフェリン投与では細胞内遊離鉄蓄積や細胞死は観察されなかった.フェロトーシス抵抗性の内皮細胞に比べ,ペリサイトでは二価鉄を取り込むトランスポーターであるDMT1の発現が有意に高く,細胞外排出にかかわるferroportinの発現が有意に低いことを明らかにした.脳梗塞巣内では,二価鉄を豊富に含む神経系細胞の破綻により二価鉄が放出されることを明らかとし,梗塞内においてペリサイトのフェロトーシスが生じるものと推定した.梗塞内におけるペリサイト残存の是非は,組織修復を介した機能回復誘導の重要因子であることから,再灌流を伴う脳梗塞病態においては,フェロトーシス阻害によるペリサイト保護が有益である可能性が示唆された.
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