研究課題/領域番号 |
20K09393
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
中原 由紀子 佐賀大学, 医学部, 講師 (50380770)
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研究分担者 |
阿部 竜也 佐賀大学, 医学部, 教授 (40281216)
伊藤 寛 佐賀大学, 医学部, 助教 (50795375)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腫瘍幹細胞 / エピジェネティクス / H3K27M変異 |
研究実績の概要 |
腫瘍組織の中には腫瘍幹細胞が存在し、腫瘍幹細胞が一度の細胞分裂で同じ腫瘍幹細胞と分化が進んだ細胞を生み出す『非対称分裂』をすることで、自己複製能と多分化能のバランスをとり、様々な環境に適応する。このことにより腫瘍形成や増殖、さらには放射線治療や薬物治療に対する抵抗性に深く関わっている。この腫瘍幹細胞の分裂機構を解明し、腫瘍幹細胞を分化誘導できれば、腫瘍組織の腫瘍幹細胞数を制御できる可能性がある。本研究では、特にクエン酸代謝関連酵素であるIDH変異型幹細胞株やヒストンH3K27変異型幹細胞株を用いて、脳腫瘍幹細胞の最大の特徴である非対称性分裂におけるエピジェネティクス機構の解明を行う。脳腫瘍幹細胞の分化誘導療法応用へと展開するための研究基盤を確立することが目的である。 すでに我々が保有している、膠芽腫細胞株 (U87MG、U251、T98G)、悪性神経膠腫患者の組織から単離・培養し、異なる遺伝子プロファイルをもつ、複数の患者由来腫瘍幹細胞を用いる。特にIDH1変異型腫瘍幹細胞株、H3K27M変異型腫瘍幹細胞株(Saga 027)を使用し、遺伝子相違による非対称性分裂の違いを検討している。各細胞株のゲノム遺伝子異常の解析を行った。脳腫瘍関連遺伝子(IDH1, IDH2, H3F3A, HIST1H3B, p53, ATRX, TERT, BRAF)の変異の有無をSanger Sequence法を用いて検出した。腫瘍幹細胞性を評価するマーカー(CD133, Musashi, Nanog, Nestin, Sox2, KLF4)の遺伝子発現をウェスタンブロッティング、qRT-PCRで定量化しstemness関連遺伝子発現の相違を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに我々が保有している、膠芽腫細胞株 (U87MG、U251、T98G)、悪性神経膠腫患者の組織から単離・培養し、異なる遺伝子プロファイルをもつ、複数の患者由来腫瘍幹細胞を対象とした。各細胞株に対し、脳腫瘍関連遺伝子(IDH1, IDH2, H3F3A, HIST1H3B, p53, ATRX, TERT, BRAF)の変異の有無について、Sanger sequence法を用いて評価した。腫瘍幹細胞株のうち、MGG119とMGG152がIDH1遺伝子変異を有していた。Saga027株はH3K27M変異を有していた。患者由来腫瘍幹細胞については腫瘍摘出標本の免疫染色を行い、シークエンスの結果と矛盾しないことを確認した。悪性神経膠腫摘出腫瘍組織から培養した、接着細胞群とスフェロイド形成細胞群を用いた。それぞれの細胞群に対し、腫瘍幹細胞マーカーであるCD133, CD44, SOX2, KLF4についてqRT-PCRを行った。スフェロイド形成細胞群で腫瘍幹細胞マーカーの発現が高いことを予想していたが、その傾向があるものの有意な結果は得られなかった。TET1, 2, 3のmRNA発現をqRT-PCRで測定した。TET1とTET3の発現量は細胞株によって異なり、逆相関を示していた。TET1発現量は、IDH1遺伝子の変異との関連はなかった。マウス正常大脳およびこれまでのヒト臨床摘出標本に対し、抗TET1抗体を用い蛍光免疫染色により、TET1の細胞内局在について評価した。
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今後の研究の推進方策 |
DH変異型幹細胞株やヒストンH3K27変異型幹細胞株を含む保有している腫瘍幹細胞株を用いて、腫瘍幹細胞がどのような機序で、stemnessの維持や腫瘍増殖に関わる遺伝子発現のON-OFFを決定しているのか解明していく。引き続き、各腫瘍細胞のゲノム解析、蛋白発現解析を進める。両者の結果に乖離がある場合、エピジェネティクス制御が働いている可能性が高いと推察される。TET発現をqRT-PCRおよびウエスタンブロッティングで定量化し、TET酵素反応基質である5-mc、産生物5-hmcを定量しTET酵素活性を比較する。 抗体γ-Tubulin抗体、抗Pan-Cadherin抗体、NuMA、DAPI、ODF2を使って蛍光免疫染色を行い、各腫瘍幹細胞が非対称性分裂を行っている現象を可視化する。可視化が可能となったのち、後期分裂のうち非対称性分裂の数をカウントし、各腫瘍細胞の非対称性分裂の頻度を定量化する。非対称性分裂 高頻度株X と、低頻度株Yを同定し、ゲノム解析およびTET活性と相関関係を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度早期に購入の予定があるため、繰り越した。 次年度も引き続き、試薬を購入する予定である。
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