研究実績の概要 |
腫瘍組織の中には腫瘍幹細胞が存在し、腫瘍幹細胞が一度の細胞分裂で同じ腫瘍幹細胞と分化が進んだ細胞を生み出す『非対称分裂』をすることで、自己複製能と多分化能のバランスをとり、様々な環境に適応する。本研究では、特にクエン酸代謝関連酵素であるIDH変異型幹細胞株やヒストンH3K27変異型幹細胞株を用いて、脳腫瘍幹細胞の最大の特徴である非対称性分裂におけるエピジェネティクス機構の解明を行う。この腫瘍幹細胞の分裂機構を解明し、腫瘍幹細胞を分化誘導できれば、腫瘍組織の腫瘍幹細胞数を制御できる可能性がある。膠芽腫細胞株 (U87MG、U251、U251nu/nu, T98G)、およびすでに細胞株として樹立されているグリオーマ幹細胞細胞株(MGG4, MGG8, MGG119, MGG152)を用いた。各細胞株のゲノム遺伝子異常の解析を行った。脳腫瘍関連遺伝子(IDH1, IDH2, H3F3A, HIST1H3B, p53, ATRX, TERT, BRAF)の変異の有無をSanger Sequence法を用いて検出した。特にIDH1変異型腫瘍幹細胞株、H3K27M変異型腫瘍幹細胞株(Saga 027)を使用し、遺伝子相違による非対称性分裂の違いを検討した。腫瘍幹細胞性を評価するマーカー(CD133, Musashi, Nanog, Nestin, Sox2, KLF4)の遺伝子発現をqRT-PCRで定量化しstemness関連遺伝子発現の相違を示した。各細胞株間での非対称性分裂の違いと、遺伝子発現の違いに相関関係があるか検討した。悪性神経膠腫患者の腫瘍組織から単離・培養した患者由来腫瘍幹細胞について、同様に遺伝子解析を行った。またこの培養の際に得られる接着性を有する細胞群とスフェロイド形成性を有する細胞群にわけ、非対称性分裂頻度の変化をみるため、その可視化を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
膠芽腫細胞株 (U87MG、U251、U251nu/nu, T98G)、およびすでに細胞株として樹立されているグリオーマ幹細胞細胞株(MGG4, MGG8, MGG119, MGG152)に対し、各細胞株に対し、脳腫瘍関連遺伝子(IDH1, IDH2, H3F3A, HIST1H3B, p53, ATRX, TERT, BRAF)の変異の有無について、Sanger sequence法を用いて評価した。腫瘍幹細胞株のうち、MGG119とMGG152がIDH1遺伝子変異を有していた。Saga027株はH3K27M変異を有していた。悪性神経膠腫患者の組織から単離・培養した患者由来腫瘍幹細胞を対象とし、上記遺伝子異常について評価した。また患者由来腫瘍幹細胞については腫瘍摘出標本の免疫染色を行い、シークエンスの結果と矛盾しないことを確認した。悪性神経膠腫摘出腫瘍組織から培養する際、細胞は接着細胞性を示すものとスゲロイド形成性を示す細胞にわかれることがあり、それらを接着細胞群とスフェロイド形成細胞群と分離して培養した。それぞれの細胞群に対し、腫瘍幹細胞マーカーであるCD133, CD44, SOX2, KLF4についてqRT-PCRを行った。スフェロイド形成細胞群で腫瘍幹細胞マーカーの発現が高いことを予想していたが、その傾向があるものの有意な結果は得られなかった。非対称性分裂の頻度について、各細胞群で蛍光免疫染色法を用いて可視化を試みた。抗体はγ-Tubulin, Pancadherin, NuMA, DAPIを用いた。予想としては、接着細胞群に対しスフェロイド形成群で有意に非対称性分裂の頻度が高いことが証明されると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
IDH変異型幹細胞株やヒストンH3K27変異型幹細胞株を含む保有している腫瘍幹細胞株を用いて、腫瘍幹細胞がどのような機序で、stemnessの維持や腫瘍増殖に関わる遺伝子発現の制御機序を決定しているのか解明していく。これらの遺伝子プロファイリングは終了しているため、Western blottingをもちいた蛋白発現の解析を行う。両者の結果に乖離がある対象細胞株に対して、エピジェネティクス制御が働いている可能性が高いと推察される。TET1, 2, 3のmRNA発現をqRT-PCRで測定しTET1とTET3の発現量は細胞株によって異なり、逆相関を示すことを証明したがTET1発現量は、IDH1遺伝子の変異との関連はなかった。TET3について遺伝子プロファイリングの結果との相関関係を検討する。 引き続き、各腫瘍幹細胞群における非対称性分裂の可視化を試みる。可視化が可能となったのち、後期分裂のうち非対称性分裂の数をカウントし、各腫瘍細胞の非対称性分裂の頻度を定量化する。非対称性分裂能の高い細胞群を免疫不全マウスに移植し、その腫瘍形成能の評価と遺伝子プロファイリングを行う。また非対称性分裂能の高い細胞群にたいし、TET蛋白群の発現解析、TET酵素活性測定を行い、腫瘍幹細胞の最大の特徴である非対称性分裂におけるエピジェネティクス機構の解明を行う。
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