研究課題
脳循環器系の障害モデル動物である脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用いて、血液脳関門障害におけるペリサイトの役割を検討した。これまでの検討により、SHRSPのペリサイトは、正常血圧ラット(WKY)のペリサイトと比較すると、血液脳関門(BBB)機能の調節機能が変化していることや、生理活性物質であるセロトニンやトロンボキサンによる過剰な収縮と弛緩の遅延が生じていることが判明した。本年度は、ペリサイトの炎症反応における役割を検討した。昨年度の遺伝子発現解析の結果、SHRSPペリサイトではWKYペリサイトに比べ、S1P受容体の発現が上昇していることが判明した。そこで、S1P受容体のアゴニストの中で、脳ペリサイトへの作用が判明していないsphingosylphosphorylcholine(SPC)を用いて、炎症関連因子の発現解析を行った。複数の炎症関連遺伝子を検討した結果、SPCはPai-1、Mcp-1、Il-6、Icam-1、Cox-2の遺伝子発現を濃度依存的に増加させた。この遺伝子発現上昇には、S1P受容体のサブタイプの中でも、S1PR2とS1PR3が関与しいていると考えられた。また、SPC刺激後のペリサイト培養上清をラット脳毛細血管内皮細胞に負荷したところ、バリアー機能の指標である経内皮電気抵抗(TEER)が低下した。SPCは脳出血後の脳血管攣縮との関連も指摘されており、脳出血を呈するSHRSPでは、SPCの刺激により過剰な炎症反応が起こっている可能性がある。また、SPC刺激後のペリサイト由来因子は、BBB機能を低下させることで脳内環境を乱す可能性がある。
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Clinical Neuroscience
巻: 40(12) ページ: 1559-1562