研究課題/領域番号 |
20K09395
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
吉本 幸司 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (70444784)
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研究分担者 |
比嘉 那優大 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 医員 (90792200)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | glioblastoma / HDAC7 |
研究実績の概要 |
膠芽腫は遺伝子発現のパターンによりmesenchymalとproneuralタイプに分類することができる。これまで独自に樹立したグリオーマ幹細胞様細胞2株(KNS1451,KNS1435)については、KNS1451がmesenchymal、KNS1435がproneuralな性質を持つことが分かっている。それぞれの細胞にHDAC7を強制発現させた細胞(O/E)と発現を抑制した細胞(KD)を作成した。強制発現細胞でHDAC7の局在を調べたところ、KNS1451では細胞質に高い発現を認めたが、KNS1435では、細胞質には弱い発現しか認めなかった。以上より、HDAC7は細胞質に移行することで、細胞のmesenchymalな性質の獲得に関与していることが示唆された。 次にKNS1451,KNS1435細胞での蛋白発現を解析するために、質量分析を行った。その結果、KNS1451では、解糖系に関与する分子が高発現されており、解糖系が優位になっていることを示唆する所見であった。そこでFlux analyzerを用いて解析を行ったところ、KNS1451では解糖系優位、KNS1435ではミトコンドリア呼吸が優位となっていた。これらの結果から、mesenchymalな細胞は解糖系優位、proneuralな細胞はミトコンドリア呼吸が優位となっていると考えられた。 以上の結果より、HDAC7はmesenchymalな細胞において、細胞質での解糖系に関わる酵素をregulationすることによって腫瘍細胞の悪性化に関与している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KNS1451、KNS1435細胞とそれぞれのHDAC7 KD細胞を用いて、low glucose conditionとhigh glucose condition条件下で培養を行い、腫瘍の増殖能やFlux analyzerでATP産生能、OCR, ECARを解析した。その結果、以下の事実が明らかとなった。 KNS1451では、glucoseがHighでもLowでもATP産生率は変わらず、解糖系が優位。HDAC7をKDすると、High glucose下でもLow glucose下でもATP産生率が下がる。HDAC7をKDし、High glucose下で培養するとミトコンドリア呼吸率が10%上がる。HDAC7をKDし、Low glucose下で培養すると解糖系が優位。 KNS1435では、glucoseがHighでもLowでもtotal ATP産生は変わらず、ミトコンドリア呼吸優位。Low glucoseではミトコンドリア呼吸が優位ではあるが、解糖系によるATP産生速度の比率が10%上がっていた。HDAC7 KDでは、High glucose下ではさほどATP産生率に変化はないがLow glucose下ではATP産生率が下がり、ミトコンドリア呼吸がさらに優位になる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はHDAC7が細胞質で、解糖系に関わる酵素をregulationするかどうかを明らかにしていきたい。解糖系で律速段階となる酵素の一つであるPFKMについての発現を解析したところ、KNS1451ではHDAC7KD細胞で発現が上昇するが、KNS1435ではHDAC7KD細胞で逆に発現が低下する現象を確認している。今後は、HDAC7と他の酵素との関連を解析していきたい。
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