研究実績の概要 |
小児大脳の発達における主要な特徴の1つは神経線維の髄鞘形成である。MRIは加齢に伴う白質の変化を視覚化するが、それが髄鞘化によるという直接的な証拠はヒトでは検証されていない。ミエリン塩基性タンパク (myelin basic protein, MBP) は、髄鞘形成に関与する主要なタンパク質であり、酵素免疫測定法 (enzyme-linked immunosorbent assay, ELISA) などの分子生物学的手法によって測定できる。この前向き研究は、てんかん治療のため脳梁離断術を受けた患者の理解と協力を得て、MRI 拡散テンソルイメージング(diffusion tensor imaging, DTI) における年齢に関連した変化と、手術中に採取した脳梁白質組織のMBP含有量とを相関させた。この研究は施設内倫理審査委員会によって承認を得た。 生後8~267ヵ月の患者16人が対象となった。14人の患者の3テスラMRIデータを使用して脳梁前部の見かけの拡散係数 (ADC)を個別に計測すると、その値は0.65~1.3x10-3 mm2/sの範囲であった。MBPに関しては、ELISA法を用いて14人の患者の組織から9.4~22.9 pg/mLのMPB が検出された。最後に、両者の計測データを12人の患者間で個別に比較したところ、ADCとMBPの計測値との間には負の相関がみられた(R=-0.75)。 本研究は小規模なパイロット研究ではあるが、この結果は、MRI-DTIで特定されたヒトの脳梁における加齢に伴う信号変化が、白質線維に存在する MBP の増加と強く相関し、髄鞘形成を示しているという直接的な証拠を提供するものである。
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