研究課題/領域番号 |
20K09406
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中瀬 順介 金沢大学, 附属病院, 助教 (50584843)
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研究分担者 |
鳥越 甲順 福井医療大学, 保健医療学部, 教授 (50126603)
葛巻 徹 東海大学, 工学部, 教授 (50396909)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲル状分泌組織 / フィルムモデル法 / 靱帯治癒 |
研究実績の概要 |
申請者の研究室では、マウスとウサギを用いて、切離したアキレス腱断端をフッ素系フィルムで挟み込むこと(フィルムモデル法)で生成されたゲル状分泌組織(ゲル)に引張力を印加すると、正常アキレス腱に類似したコラーゲン線維に変化することを発見した。本研究の目的は、フィルムモデル法を靭帯組織に応用することで、ウサギ内側側副靭帯および前十字靭帯由来ゲルの産生時期や組織学的特徴を明らかにすること、さらには、引張力印加によるゲルの固有再生能、靭帯縫合モデルへの添加によるゲルの靭帯治癒促進効果を明らかにすることである。 本研究の研究課題は、①「生体材料の生成方法の最適化」、②「ゲル状分泌組織の成熟条件、介入条件の確立」、③「内因性再生のみによる靭帯治癒促進効果の検討」の3点である。具体的には、切離靭帯断端にフィルムモデル法を行い、術後3日、5日、10日、15日生体温存することで生体温存期間の異なるゲルを作成し、それぞれのゲルの成熟度や、引張力印加により生成されるコラーゲン線維の表面構造やコラーゲン径、コラーゲンタイプをH-E染色、Elastica van Gieson染色(EVG染色)、免疫染色、電子顕微鏡を用いて組織学的に評価する。さらに、生体温存日数3日目のゲルを内側側副靭帯縫合モデルに添加し、縫合単独モデルと組織学的(H-E染色、EVG染色、免疫染色)および力学的(最大破断強度、組織剛性)に比較することで、ゲルが持つ靭帯治癒促進効果の有無を評価する。 現在、比較的治癒しやすく、処置が簡便な内側側副靭帯を用いた研究を先行して実施している。内側側副靭帯由来ゲルの生体温存日数による成熟度や引張力印加による変化の違い、靭帯治癒促進効果の有無に関して、現時点で明らかになった部分を以下に示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①ウサギ内側側副靭帯由来のゲルを組織学的に評価した。予定検体数は生体温存期間3日、5日、10日、15日それぞれ5羽で、すでにすべての評価が完了した。成熟度は、HE染色で、靭帯とゲルとの結合数(0-2点)、ゲルの円型核細胞/扁平核細胞比<1(1点)、靭帯とゲルの結合部の細胞数/ゲル中央部の細胞比<1(1点)、EVG染色で、ゲルの染色濃度(0-3点)を評点し、比較した。成熟度は3日群で1.6±0.9点、5日群で2.0±1.2点、10日群で3.6±1.1点、15日群で5.0±0.7点であり、生体温存期間10日以降のゲルは3日のゲルに比べ、有意に成熟していた。本結果は、ウサギアキレス腱由来のゲルから得られた結果と類似し、腱由来ゲルと靱帯由来ゲルは同じような成熟過程を経ると考える。 ②各生体温存期間で採取したゲルに対して単純引張試験とサイクル引張試験を行い、引張力印加時のコラーゲン架橋特性および破断強度、引張力印加後の組織学的評価(電子顕微鏡、免疫染色)を行っている。予定検体数は各生体温存期間あたり5検体ずつで、引張試験の約80%が完了している。アキレス腱由来のゲルでは、生体温存期間が短いゲルに引張力を印加すると、組織学的に成熟した正常腱に近いコラーゲン線維に変化することわかっており、靭帯由来ゲルでも類似した結果が想定される。しかし、靭帯由来ゲルでの引張力印加時のコラーゲン架橋特性および破断強度において各生体温存期間検体間のデータにばらつきが大きい。 ③生体温存期間3日の内側側副靭帯由来のゲルをウサギ内側側副靭帯縫合モデルに添加し、縫合部の組織、力学的な違いを縫合単独モデルと比較している。観察期間および予定検体数は術後7日、14日、28日各5羽ずつで、HE染色およびEVG染色の組織学的評価が完了している。術後7日では靭帯由来ゲル添加モデルで靭帯治癒促進傾向が観察されている。
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今後の研究の推進方策 |
ウサギ内側側副靭帯由来のゲルは、アキレス腱由来のゲルと同じく、生体温存期間が長いゲルほど成熟度が高いことが明らかになった。一方で、引張力印加によるゲルの変化については、予定検体数の大部分を終えているものの、そのデータにはばらつきが大きい。その要因には内側側副靭帯由来のゲルはアキレス腱由来のゲルに比べて生成されるゲル量が少なく、引張試験を施行するに満たない可能性が考えられる。 アキレス腱由来のゲルにまつわる先行研究では、生体温存期間が短いゲルに引張力を印加すると、組織学的に成熟した正常腱に近いコラーゲン線維に変化する、すなわち生体温存期間が短いゲルは固有再生能が高いことが明らかになった。本研究ではこの結果に準じて、生体温存期間3日のゲルを内側側副靭帯縫合モデルに添加し、ゲルの靭帯治癒促進効果の評価を行っている。今後は、これまでに実施したHE染色、EVG染色に加えて、縫合部に生成されたコラーゲンタイプの違いを免疫染色で、各術後日数における縫合部の力学的強度の違いを万能試験機で比較する。 研究全体の展望としては、靭帯由来ゲルにまつわる各評価が完了した上で、前十字靭帯由来のゲルの処理に移行する予定であったが、靭帯由来ゲルの生成量が予想よりも少ないため、アキレス腱由来ゲルを再生医療材料として応用することを考えている。アキレス腱由来ゲルを注射剤として、靭帯断裂部などに投与できる製剤を想定している。そのためにもまずは、皮膚切開し、単純縫合モデルと縫合+腱ゲルのモデル比較を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験自体は計画よりも進行しているが、コロナ禍による学会に参加することがなかったことが大きな理由である。
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