研究課題
大腿骨・脛骨間に繰り返しストレスを加えるCyclic compressionモデルをラットを用いて作成し、介入後2週で大腿骨後方顆部の軟骨細胞死を、4週で軟骨損傷を生じることを確認した。また、このモデルでは6ヶ月では大腿骨、脛骨の軟骨変性、滑膜炎も見られ、外傷性軟骨損傷から変形性関節症へと至るモデルであることを確認した。このモデルに対して、細胞死抑制効果のある新規化合物であるKUS121を投与したところ、2週、4週で細胞死抑制効果により、生存細胞数の有意な改善が確認され、軟骨基質においても、損傷領域の減少や、変形性関節症スコアの軽減が見られた。また、免疫染色において、小胞体ストレスの軽減と軟骨破壊分解酵素の抑制が見られた。Cyclic compressionにより滑膜においてもKUS121の投与によりSublining layerの肥厚や炎症細胞の浸潤などの軽減が見られ、滑膜炎スコアも軽快した。滑膜内のタンパク分解酵素の発現も低下していた。メカニズムを検討すべく、ヒト軟骨細胞を採取してin vitroで実験を行った。KUS121が作用するvalosin-containing protein (VCP)蛋白質は、滑膜や軟骨細胞にも発現し、KUS121が軟骨細胞においてATP消費を抑制する作用を有することを確認した。軟骨細胞にツニカマイシンを投与し小胞体ストレスを惹起したところ生細胞数が減少したが、KUS121を投与することによる生細胞数のレスキューに成功した。KUS121は小胞体ストレスと応答のうち、PERK、ATF4、CHOPの系とIRE1からJNK Mapキナーゼの系の抑制を介して細胞死抑制効果を得ていることがわかった。さらにKUS121は炎症性サイトカインである、TNF-α、IL-1βを抑制し、また軟骨基質分解酵素を抑制することも確認された。
2: おおむね順調に進展している
ラットでの、大腿骨・脛骨間に繰り返しストレスを加えるCyclic compressionモデルを確立し、このモデルが外傷性軟骨損傷から、関節全体の変性を伴う変形性関節症へと至るモデルであることを確認した。このモデルに対して、細胞死抑制効果のある新規化合物であるKUS121を投与し、短期の検討ではあるが軟骨細胞死の抑制及び軟骨損傷領域の減少が得られることがわかった。メカニズムとして、細胞実験により、KUS121の小胞体ストレス軽減作用による炎症性サイトカインの抑制、軟骨基質分解酵素の抑制効果が確認された。
KUS121による短期の軟骨細胞死抑制効果、軟骨損傷抑制効果が確認された。より長期において、実臨床で重要となる外傷性変形性関節症への進行を抑制できるのかということは、まだわかっていないため、今後より長期の観察により初期の軟骨細胞死を抑制することにより、最終的な変形性関節症抑制効果が得られるのかを検討する予定である。また、適切な投与タイミングと投与期間を得るため、受傷早期における遺伝子・タンパク発現の検討を行い、外傷後どの時点からどの時点まで、どの作用に対して介入すれば最も効果的に軟骨保護作用を得られるかを検討したいと考えている。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Scientific Reports
巻: 10 ページ: 20787
10.1038/s41598-020-77735-2.