研究課題
われわれは、日本人CSの約10%がTBX6遺伝子の変異によって起こることを明らかにした(Hum Mut. 2017)。そして、中国の研究グループと我々のコホートの結果を統合し、TBX6関連CSの臨床所見を明らかにした(Genet Med. 2019.)。また、機能解析の結果、機能喪失を来すmissense mutationとrisk haplotypeのヘテロ接合性でもCSを発症する事を、明らかにした(Hum Mut. 2017)。さらに機能解析を進め、この機能喪失を来す機序には転写活性の喪失とTBX6タンパク質の細胞内局在異常の2種類が存在し、後者が機能喪失を来す主な病因である事を明らかにした。そして、両アレルにTBX6タンパク質細胞内局在異常を来す missense mutationを持つ、自験例の SCD 患者のiPS細胞を確立し、TBX6タンパク質細胞内局在異常がiPS細胞でも再現されるか否か確認した。われわれは、TBX6が最も発現している体節形成期まで誘導し、TBX6 タンパク質細胞内局在の有無を確認した。更に、体節形成期の TBX6 の発現を確認すると、TBX6 およびその下流の遺伝子の発現が低下している事が明らかになった。最後に表現型と遺伝型の関係を検討すると、両アレルに機能喪失を来す変異を有すると、より重症な表現型を呈する SCD を発症する事を明らかにした。以上より、TBX6 において、今まで全く異なる疾患と考えられていた両疾患は、一連の疾患群であり、表現型は変異の重症度に依存しているが明らかになった (J Med Genet. 2019)。さらにわれわれは、LFNG 遺伝子は、CS の新規原因遺伝子であることを明らかにした。(J Hum Genet 2019)。
3: やや遅れている
先天性側弯症の患者のエクソーム解析を行っている。これまで日本人の先天性側弯症の患者本人を中心にエクソーム解析を行ってきたが、TBX6とLFNG以外の候補遺伝子が挙がってこなかった。そこで今回患者本人とその両親を含めたトリオ解析を行う方針とした。これにより、患者本人のエクソン内に有害と思われるmutationが見つかったとした場合、その両親の表現型と遺伝型を追うことができる為、そのmutationをdominant model もしくは recessive modelに当てはめることにより先天性側弯症の原因遺伝子を同定できる可能性が高い。昨年度は新たに提出するサンプルの選別、DNA抽出、及びサンプルDNAのエクソームへの提出までに進捗は留まった。これまでに集めたサンプルで未だエクソーム解析を行っていない120例のサンプルから、TBX6の評価を行っていない49例をピックアップし、コピーナンバーアッセイにて2例のTBX6関連先天性側弯症の除外を行った。除外後、頸椎に脊椎奇形を認めず、胸椎腰椎を中心に2椎体以上の椎体奇形、もしくは肋骨の異常を認めるといった表現型が強く出ているサンプルを選別した。サンプルのクオリティを満たす先天性側弯症51例とその両親のDNAを抽出し、今回エクソーム解析に提出した。
先天性側弯症のトリオのエクソーム解析はこれまで15例提出しており、今回新たに51家系が追加される予定である。これによりトータル66家系のトリオ解析が可能になると共に、これまで提出してきた79例の先天性側弯症患者のエクソームデータに追加で51例の患者が加わり、患者のみだけでもおよそ130例で解析が可能となる。上記で述べたように患者本人と両親で共通で持つmutationの評価を行うこと、及び患者130例の中で2例以上で共通で持つmutationの評価を今後行いたいと思う。現在エクソームのraw dataが返却されてきており、今後FASTQファイルからVCFファイルに変換を行い、先天性側弯症の発症アレルの頻度(Allele Frequency<0.03)による絞り込みを行う。その後、両親のデータを含めたトリオ解析を行うことで発症原因遺伝子の探索を行う予定である。これにより得られた発症原因遺伝子は、今後共同研究者の行っているiPS細胞を使用した体節形成を可視化する技術に導入することで、同定した遺伝子がノックアウトされることにより起こる脊椎骨の発生異常を視覚的に捉えることができるようになると考えている。
2020年度は先天性側弯症例の唾液サンプルを収集を予定していた。そして、そのサンプルをエクソーム解析に提出する予定であった。しかしコロナ禍の影響で、対象患者が外来に来ない、来てもコロナ感染の危険性があるためサンプル収集を行うことが出来なかった。そのため、収集のための人件費、消耗品、解析費用の支出が大幅に減少した。2021年度は再開を前向きに検討している。更に、学会も中止もしくはウェブ開催となったため、出張費、学会参加費が大幅に減少した。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
日本整形外科学会雑誌
巻: 94 ページ: 24-26
巻: 94 ページ: 19-23