研究課題/領域番号 |
20K09421
|
研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 仁士 産業医科大学, 医学部, 講師 (80644880)
|
研究分担者 |
上田 陽一 産業医科大学, 医学部, 教授 (10232745)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | バゾプレッシン / トランスジェニックラット / 神経障害性疼痛 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、AVP mRNA、CRH mRNA及びP0MC mRNAの発現レベルをin situ ハイブリダイゼーション法(ISH)により評価した。AVP-eGFPトランスジェニック(Tg)ラットを用い、脊髄神経結紮損傷(spinal nerve ligation, SNL)モデルを作成した。処置後14日に断頭し、血液を採取し、脳を速やかに摘出した。12μm厚の薄切切片を作成し、ISHを行なった。視床下部の視索上核(SON)及び室傍核(PVN)におけるSNL群のAVP mRNAの発現レベルが有意に増加した。PVNの小細胞領域におけるSNL群のCRH mRNAの発現レベルは有意に低下し、下垂体前葉(AP)におけるPOMC mRNAの発現レベルは有意に増加した。AVP特異的な抗体を用いたラジオイムノアッセイ法(RIA)により血漿AVP濃度を測定したが、それぞれの群間に有意差を認めなかった。 さらに、AVPニューロンに薬剤興奮性人工受容体(hM3Dq)を挿入した雄性7週齢のAVP-hM3Dq-mCherry Tgラットを用いてSNLモデルを作成した。生理食塩水またはhM3Dqのアゴニストであるクロザピン N-オキシド(CNO,1mg/kg)を腹腔内投与する2群に分けた。処置後7日及び14日後にSNL群では機械刺激及び温刺激に対する痛覚閾値の低下を認めた。処置後14日後に生理食塩水またはCNOを腹腔内投与し、処置後90分の機械刺激及び温刺激に対する痛覚閾値の変化を評価した。SNL群に対してCNOを投与すると機械刺激及び温刺激対する痛覚閾値の上昇を認めた。生理食塩水またはCNO投与後90分後に断頭し、血液を採取した。 RIAを用いて血漿AVP濃度を測定した。CNO投与群では血漿AVP濃度が有意に増加した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度はAVP-eGFP Tg ラットを用いて神経障害性疼痛(SNL)モデルを作成し、視床下部SONおよびPVNにおいて同モデルを使用してAVP mRNAの発現レベルをin situ ハイブリダイゼーション法により評価し、AVPニューロンの活性化を遺伝子レベルでも確認することができた。さらに、AVPニューロンに薬剤興奮性人工受容体(hM3Dq)を挿入したAVP-hM3Dq-mCherry Tgラットを用いてSNLモデルを作成し、AVPニューロンを活性化させたCNO投与群では機械刺激および温刺激に対する痛覚閾値の上昇を認め、血中AVP濃度の上昇が疼痛抑制に作用していることを明らかにした。神経障害性疼痛モデルにおけるAVPニューロンの活性化をタンパクレベルおよび遺伝子レベルで明らかにし、さらに血中AVP濃度の上昇が疼痛抑制に作用していることも確認されたため、現段階では概ね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、神経障害性疼痛病態下におけるAVP及び関連遺伝子のmRNA発現レベルを評価した。さらに、薬理遺伝学的な内因性AVPニューロンの活性化により血漿AVP濃度の上昇を伴う痛覚閾値の上昇を認めた。次年度(令和4年度)は、AVP-hM3Dq-mCherry Tg ラットを用いて、内因性AVPニューロンがどのように鎮痛作用を及ぼすのかその機序に迫る予定としている。具体的には、脳幹及び脊髄後角に着目し、下行性疼痛抑制系とAVPの機能連関について検討を行う。本研究の成果は、日本生理学会、日本整形外科学会などの国内学会および国際学会に発表を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大に伴い、在宅勤務の期間が延長し研究機器の購入が控えられたこと、および出張旅費や学会への参加に伴う支出が減少したことなどが影響した。次年度は既に研究の成果が概ね得られているので、脳幹や脊髄後角におけるAVPの疼痛抑制に関するデータを蓄積する予定である。さらに学会発表のための出張や論文投稿に向けた準備や打ち合わせ、英文校正などを行い、計画的に研究費を使用する予定である。
|