予定していた計画は、ほぼ順調に進捗した。ルブリシンをコードする PRG4 遺伝子に変異を有する患者は 若年から関節症を発症すること、Prg4 ノックアウト(Prg4-KO)マウスでも早期に変形性関節症が生じることから、ルブリシンは関節表面に潤滑性を与えることで構造的に関節を保護すると理解されてきた。また、我々は Prg4 ノックアウトマウスの関節において、関節症を発症する前段階では SFZ 付近の軟骨細胞が早期に成熟する傾向があることを見出した。Prg4-KOマウスは、出生後早期から野生型マウスと比較して軟骨が肥厚し、関節軟骨組織の最表層(Superficial Zone、以下SFZとする)が消失していた。Prg4-KO SFZ細胞のRNA-seqを行い、特徴的な遺伝子の探索を行ったところ、野生型のSFZ細胞の遺伝子発現の特徴と比べて、増減している遺伝子を同定することができた。それらには、免疫系プロセスや炎症反応などの炎症に関連する遺伝子や、細胞外マトリックスや骨化関連遺伝子などがあった。野生型と比べてPrg4-KO SFZ細胞で発現が上昇している遺伝子としてMmp9に着目した。Prg4-KO SFZ細胞で観察されたMmp9の誘導機構を調べるために、 IκBキナーゼ阻害剤であるBMS-345541をPrg4-KO SFZ細胞に作用させたところ、Mmp9の高発現はキャンセルされた。また、Mmp9はTGF-bシグナルとの関連が多く報告されていることから、TGF-bの主要なシグナル分子であるSmad2のリン酸化を調べたところ、Prg4-KO SFZ細胞ではSmad2のリン酸化が促進していたが、これもBMS-345541で減少するということがわかった。すなわち、本研究により、Prg4はNfkB-Mmp9-TGF-b の経路を介して、関節軟骨の恒常性に寄与するということを示された。
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