研究課題/領域番号 |
20K09432
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
堀家 なな緒 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(RPD) (30589221)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 軟骨 / 骨 / 生理活性物質 / 質量分析 / エネルギー代謝 / 血漿プロテオーム解析 |
研究実績の概要 |
寿命の延伸が健康寿命の延伸に直結しないことは、超高齢社会において大きな問題となっている。加齢に伴う罹患疾患数の増加により、疾患相互の影響を考慮する必要性がある。近年、代謝疾患と骨粗鬆症の関係については、多くの知見が集積され、世界的な注目を浴びているが、両者の関係は,糖尿病等の患者が高齢化しているため、より一層重要である。 骨や軟骨は、身体を支えたり、カルシウムを貯蔵するだけでなく、内分泌臓器として機能する可能性がある。他臓器の間をつなぐ骨、軟骨生理活性物質(以下新規生理活性物質)を同定することは、エネルギー代謝・糖代謝の恒常性維持に関わる新たな機能解明につながり、人類の健康に関わる大きな発見となる。 ヒトの全ての臓器は細胞を構成単位としており、細胞の増殖、修復、代謝、細胞間の情報交換の機能低下は、結果的に、疾病の発症や老化の大きな危険因子となる。情報交換を担うのは、組織から分泌される「ホルモン」や「サイトカイン」などである。高齢者では、脳、腎臓、筋肉、骨、胸腺、褐色脂肪など多くの組織に退行性萎縮が見られ、これらの組織では細胞数は減少して生理機能も低下している。この中でも骨は、加齢の影響を最も強く受ける組織である。さらに、食事や運動、ホルモンにも影響を強く受ける。運動の中心的役割を担う器官である骨や骨格筋が 健康と深く係わることが示唆されている。習慣的な運動は種々のガンの発症リスクを減らし、筋肉、脂肪、肝臓での代謝機能を亢進させる。 本研究では、ヒトiPS細胞由来軟骨組織を移植したマウスに様々な刺激をかけスクリーニングすることから、エネルギー代謝に重要な新規生理活性物質を軟骨・骨組織から同定することにある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SCIDマウスにヒトiPS細胞由来軟骨組織を移植し、レントゲンによる骨分化をモニタリングした。移植後3か月で十分に骨に分化しており、移植後9ヶ月の移植組織のHNA染色の結果、組織はヒト由来であることを確認した。しかしながら、移植マウスの血液の軟骨マーカーである既存のヒトⅡ型コラーゲン、ヒトコンドロカルシン、骨マーカーであるヒトオステオカルシンをマウスに交差性のない抗体を用いてELIZAで検討したが、移植マウスで、これらのマーカーの血中への分泌は確認できなかった。骨組織からこれらの分泌を促進するには、何らかの刺激や体内環境の変動が必要なため、この実験では、うまく検出できなかったと考察する。引き続き、移植マウスに高脂肪食を負荷、インスリン、PTHrP製剤刺激を行い、血液サンプルを採取している。負荷刺激マウスと対照マウスの血漿をLC-MS/MS 型質量分析装置にかけ、ヒトアミノ酸配列のデータベース上の遺伝子と一致するタンパク質を探索することで、新規分泌因子Xの同定を行う。エネルギー代謝に関連する軟骨・骨組織由来の特別な分泌タンパク質が同定できる可能性が高いと考える。
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今後の研究の推進方策 |
軟骨・骨組織由来の新規分泌因子の中からエネルギー代謝を制御する新規生理活性物質をスクリーニングし、機能を解明する。まず、新規分泌因子の種々のバイオアッセイを行う。次に、新規分泌因子投与によるマウスのエネルギー代謝調節を検討する。バキュロウイルスを用いて発現精製したリコンビナントタンパク質をマウスに静注投与し、エネルギー代謝を検討する。さらに、遺伝子導入を用いたマウス体内新規分泌因子の発現とその効果を調べ、エネルギー産生亢進の抗肥満薬、糖尿病薬の創薬への応用を検討する。 正常マウス、高脂肪食による肥満モデルマウス、肥満/2型糖尿病モデルマウスを用いて、得らた分泌因子の中からエネルギー代謝に関与する生理活性物質をスクリーニングする。様々な刺激によるマウス生体内で新規分泌因子の量的変動を新規分泌因子抗体を用いたELIZA法により検討する。具体的には、高脂肪食負荷、運動、インスリン刺激、チアゾリジン誘導体等薬物処理等による変動をモニタリングする。 2型糖尿病ではAGE(advanced glycation end products;終末糖化産物)架橋の形成が増加しており、皮質骨での多孔性が存在し、骨芽細胞機能の低下を伴う骨リモデリングの低下などが2型糖尿病での骨脆弱性の原因である可能性がある。新規分泌因子抗体を用いて、健常者と糖尿病患者の血液、尿を用いてELIZA法で比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、ヒトiPS細胞由来軟骨を移植したSCIDマウスの血液から既存のマーカー分子の同定ができなかったため、予定していた質量分析にかけることができなかった。次年度、これまでの血漿サンプルを全て質量分析にかける必要があり、かかる費用を繰り越したい。
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