研究課題/領域番号 |
20K09442
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
中川 晃一 東邦大学, 医学部, 教授 (30400823)
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研究分担者 |
赤津 頼一 東邦大学, 医学部, 講師 (20795190)
玉田 靖 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (70370666)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フィブロイン / 線維芽細胞増殖因子 / 軟骨再生 / 滑膜細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、遺伝子組換えカイコより精製した線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor2, 以下FGF2)誘引フィブロインを利用し、より層の厚い移植用ヒト滑膜細胞シートを作製することを目的としている。令和2年度は、ヒト手術検体より採取し分離した滑膜細胞またはヒト骨髄由間葉系幹細胞(不死化細胞株UE6E7-16)をFGF2誘引フィブロインスポンジ上に播種して細胞シートを作製し、細胞増殖能、組織像についてWild-typeフィブロインと比較検討した。酵素処理により単離したヒト滑膜細胞は、異なる細胞密度(0.5 million /disc, 1 million /disc)でフィブロインスポンジ(disc状、大きさは径8mm, 厚さ3mm、孔径 50または100μm)上に播種した。12時間静置後に、10 %FBSおよび0.2 mM Asc2-P を添加した DMEM/F12 培地にて1週間培養し、コラゲナーゼ処理を行ってフィブロインスポンジから分離し、トリパンブルーで染色後に細胞数および生存率を計測、一部は WST-8 assayにより細胞増殖能を評価した。また、滑膜細胞層をpapainにて酵素処理後、DNA量(ヘキストダイによる定量)の測定を行った。培養液中にrhFGF2(3ng/ml, 30ng/ml)を添加した群についても同様の検討を行った。細胞数、WST-1 assay、DNA量ともにFGF2誘引フィブロイン群およびrhFGF2添加群で有意に高値を示し、その効果が確認された。フィブロインスポンジの孔径による比較も行ったが、孔径 平均100μmのフィブロインおいて高い細胞増殖を示したことから、来年度以降の実験にはこの孔径のフィブロインを使用することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度はヒト手術検体より採取し分離した滑膜細胞に加えて、実験の条件設定を行う目的でヒト骨髄由間葉系幹細胞(不死化細胞株UE6E7-16)も使用した。FGF2誘引フィブロインスポンジ上に播種して細胞シートを作製し、細胞増殖能について検討を行った。またFGF2誘引フィブロインスポンジ上でヒト滑膜細胞シートを作製する際のスポンジ孔径と播種細胞数の条件検討を行った。今回設定した条件下では、1 million /disc、孔径約100μmが最も適していると考えられ、FGF2誘引フィブロインの使用および培養上清へのrhFGF2添加により滑膜細胞の増殖が促進されることが確認された。細胞増殖には個体差があったが、いずれの細胞においても細胞増殖効果が得られていた。しかし、予備実験として軟骨分化誘導培地にて計4週間の培養を行ってみたところ、ヒト滑膜細胞では細胞シートの厚さに関しては個体差が大きく、十分な細胞層が得られないものもいくつか存在した。これらについては、FGF2添加とFGF2誘引フィブロインによる差が十分に得られていないようであった。軟骨分化の詳細な検討に関しては、まず軟骨への分化が確実に得られるヒト由来不死化細胞株を用いて行うことが必要と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度と同条件で作製した滑膜細胞シートを、培養開始後1週目から200 ng/mlのrhBMP2を添加した軟骨分化誘導培地(DMEM high glucose, 1% ITS mix, 160μg/ml sodium pyruvate, 100 ng/ml dexamethasone, 0.2 mM Asc2-P, 10ng/ml TGF beta-3 )で培養し、軟骨分化につき評価する。通常のフィブロイン群(1ng/ml rhFGF2存在下および非存在下)、FGF2 誘引フィブロイン群で比較検討する。細胞としてはヒト滑膜細胞の他に、軟骨への分化誘導が確認されているヒト骨髄由間葉系幹細胞(不死化細胞株UE6E7-16)も使用する予定である。組織学的検討としては、HE、トルイジンブルー、サフラニン-O による染色と抗S100蛋白抗体および抗II型コラーゲン抗体を用いた免疫染色を行い、軟骨分化を評価する。生化学的検討として、滑膜細胞層をpapainにて酵素処理後、DNA量(ヘキストダイによる定量)、プロテオグリカン含有量(DMMB法)、コラーゲン含有量(HPLCによるハイドロキシプロリン量)を測定する。またRNAを抽出し、real-time RT-PCR法によるI, II 型コラーゲン、アグリカン、Sox9の遺伝子発現定量を行う。以上の解析結果は、検体を得た症例の年齢、滑膜病理組織学的所見によっても比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は細胞増殖に関する検討を中心に行い、培養期間が比較的短くて済んだため、ウシ胎児血清、細胞培養試薬、消耗品の使用量が予定より少なかった。このために、次年度使用額221,829円が生じた。令和3年度は主に軟骨分化に関する評価を行うため培養期間が長くなり、前年度よりもウシ胎児血清、細胞培養試薬、消耗品の使用量が多くなる。また前述の通り、ヒト由来骨髄間葉系幹細胞株UE6E7-16による条件検討を行う場合には、予定よりさらに使用量が増えると予想される。前年度より繰越して使用することとなった分と令和3年度配分金を合わせ、これらウシ胎児血清、細胞培養試薬、消耗品の購入に使用する予定である。
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