研究課題/領域番号 |
20K09446
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
酒井 昭典 産業医科大学, 医学部, 教授 (90248576)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | wntシグナル / 海綿骨量 / 筋重量 / Gdf8/Myostatin |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、骨の増加と減少・筋の肥大と萎縮のバランスを生体と分子レベルで解明することである。令和2年度は、骨・筋の組織学的変化と骨・筋へ作用する関連遺伝子の発現を明らかにした。8週齢の雄性C57BL/6Jマウスを用いた。尾部を懸垂し後肢を1週間非荷重にした(非荷重モデル)マウスでは、後肢の海綿骨量と筋重量がともに減少した。非荷重により、皮質骨ではDKK(Dickkopf;Wntシグナルを抑制する)のmRNA発現は上昇した。一方、高さ1メートルのケージ内で4週間飼育した(荷重負荷モデル)マウスでは、後肢の海綿骨量と筋重量がともに増加した。皮質骨では荷重負荷1週でWnt-1、Frizzled 4、β-cateninのmRNA発現が対照群と比べて有意に上昇し、Cbfa-1、Osteopontinも上昇した。Wntシグナルは骨と筋の両方を制御する可能性がある。 Wnt familyのひとつであるWnt10a遺伝子欠損(KO)マウスの骨と筋を解析し、野生型(WT)マウスと比較した。KOマウスの後肢では、骨石灰化が抑制され、海綿骨量が減少した。骨形成関連マーカーであるRUNX2、Col1、OsteocalcinのmRNA発現はKOマウスで有意に低下していた。しかし、後肢の筋重量は、大腿四頭筋、腓腹筋、足底筋、ひらめ筋のいずれも減少しなかった。筋関連マーカーであるAtrogin-1、MuRF1、Myf5、 MyoD、MyogeninのmRNA発現はKOとWTマウスで差がなかった。KOマウスの腓腹筋におけるGdf8/Myostatinの発現はmRNAでもタンパクでも有意に抑制されていた。これらの結果から、Wnt10a遺伝子の欠損は、骨形成を抑制するが筋重量を維持することが明らかとなった。また、Gdf8/Myostatinの抑制により筋重量が維持されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、非荷重モデルマウスと荷重負荷モデルマウスを用いて、メカニカルストレス増減下での、海綿骨量と筋重量の変化を評価することができた。その実験の中で、Wntシグナルが骨と筋の双方を制御していることに着目し、Wnt familyのひとつであるWnt10a遺伝子欠損マウスを用いて、骨と筋を解析し、野生型(WT)マウスと比較した。その結果、Wnt10a遺伝子欠損マウスでは、海綿骨量は減少するが筋重量が維持されているというユニークな事実を明らかにすることができた。当初の計画と照らし合わせて、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、Wntシグナルが骨と筋を制御する機序に着目して研究を進めるとともに、骨・筋のアナボリック作用が減弱したモデルマウス(遺伝子改変動物)における骨-筋相互連関を明らかにする方策である。現時点では、骨アナボリック作用が減弱したモデルマウスとして8週齢の雄性Aldh2 KOマウスを用い、筋アナボリック作用が減弱したモデルマウスとして、12週齢の雄性mdxマウスを用いる予定である。mdxマウスはジストロフィンが機能欠損したマウスで、DMD(デュシェンヌ型筋ジストロ フィー)のモデルとして知られている。これらの研究から、骨と筋の双方を制御する分子メカニズムを探索する方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおむね順調に進んでいるが、Wnt10a遺伝子欠損マウスの非荷重モデルおよび荷重負荷モデルの実験については、コロナの影響により計画的に進まなかった。来年度には試薬等消耗品の購入にも使用したい。
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