研究実績の概要 |
本研究の目的は、骨と筋の連関を生体と分子レベルで解明することである。令和5年度は、エラスターゼ(PPE)誘導性肺気腫(慢性閉塞性肺疾患:COPD)モデルマウスを用いて、骨と筋の組織を定量的に評価するとともに遺伝子発現を解析した。このCOPDマウスでは、海綿骨量の減少、ヒラメ筋重量の減少、I型筋線維の減少と萎縮、骨格筋酸化ストレス増加、p38MAPK活性化及び筋萎縮シグナルの増加が生じていることを令和4年度までに明らかにしてきた。今回、p38阻害剤の効果を確認した。 12週齢雄C57BL/6Jマウスに生食またはPPE 0.1単位を気管内投与し、Control群、PPE群とした。投与後4週から各群の半数に0.1 microM p38阻害剤SB203580含有飲料水を与え、各p38i群、PPE+p38i群とした。投与後12週時点でヒラメ筋を採取した。その結果、PPE群で認めていたヒラメ筋重量減少は、p38阻害剤投与によって有意に改善した。PPE群ではI型筋線維割合の減少と筋線維断面積の減少を認めていたが、PPE+p38i群ではPPE群と比べどちらも有意に増加していた。PPE群で有意に上昇していた4HNE, p-p38/p38は、PPE+p38i群ではPPE群と比べて有意に低下していた。PPE群で活性化された筋萎縮シグナルは、PPE+p38i群では抑制された。 結論として、COPDマウスで認めたヒラメ筋重量の減少、I型筋線維の減少と萎縮、骨格筋酸化ストレス増加、p38MAPK活性化及び筋萎縮シグナルの増加は、p38阻害剤投与によって防止できた。p38阻害剤は COPDマウスの骨格筋障害を予防できる可能性が示唆された。また、このCOPDマウスでは、自発活動量は低下しておらず、不活動と関係なく、海綿骨量減少と筋重量減少などの筋骨格系障害が生じていることを確認した。
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