研究課題
骨粗鬆症モデルマウスを用いた先行研究では「骨代謝亢進に伴う痛関連分子の発現増強により末梢神経の侵害受容体活性化を介した運動器の疼痛が誘発されること、また、骨の細胞に発現した受容体の活性化を介してさらに骨代謝が亢進し、これらの悪循環の継続が局所性の骨粗鬆化を伴う運動器の難治性疼痛疾患の発症機序の一つの可能性があるを明らかにした。本研究では「軟部組織損傷にともない形成される疼痛を誘発する環境が骨組織の骨代謝に影響する」と仮説を立てた。はじめに、一側の大腿部の皮膚を筋膜まで小切開後、閉創せずそのままとする大腿皮膚切開モデルを樹立した。切開した患側は健側と比較して有意に疼痛行動の誘発をみとめ、創治癒が治癒する術後14日で疼痛は改善した。さらに、疼痛行動を認める損傷後1,5,7日では骨代謝マーカーのOsterixやRANKLの有意な発現増強をみとめ、14日では健側と有意差を認めなかった。さらに、ビスホスホネートやCox2 inhibitorを投与して、同様の検討を行った。ビスホスホネートとCox inhibitorはともに疼痛行動を部分的に改善したが、Cox inhibitorには骨代謝マーカーの発現抑制効果を認めなかった。さらに2つの薬物を同時に投与すると疼痛行動は著明に抑制された。このことは、疼痛を誘発する組織環境が骨代謝亢進を誘発することを直接示した結果と考える。本研究結果と先行研究内容より、疼痛を呈する組織環境が骨粗鬆化を誘発し、骨代謝亢進を認める組織環境が運動器の疼痛を誘発する」病態が存在すると考られた。その後は、このような組織の状態をさらに検討するため、皮膚切開術2日後に大腿骨を採取してRNAを抽出し、マイクロアレイを用いて骨組織における遺伝子発現変化を網羅的に解析することをすすめ、現在はいくつかの候補遺伝について解析を進めている。
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