研究課題/領域番号 |
20K09472
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
太田 昌博 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (70823334)
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研究分担者 |
高畑 雅彦 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (40374368)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 異所性石灰化 / 慢性炎症 / 石灰化抑制機構 / ピロリン酸代謝 / 炎症アンプ / IL-6 / 靭帯 / 線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
2年目は、初年度に確認したラットアキレス腱由来線維芽細胞でえられたIL6とTNF-αによるピロリン酸代謝異常がヒト細胞でも確認できるかどうかを調査した。ヒト線維芽細胞は倫理委員会の承認を得た後、黄色靱帯骨化症や石灰化症患者の黄色靱帯から採取し、さらに同年代の変性黄色靱帯からも採取した。当初はリベラーゼで消化して細胞採取(細胞分散培養法)を行っていたが、細胞生存率が低く、拡大培養すると長期の時間を要すること、さらに形態の異なる細胞が含まれることや実験結果が安定しないなどの問題点があった。そこで、組織片培養法に変更して細胞採取を行ったところ、組織片培養法のほうが遊走能をもつ線維芽細胞のみが培養されるため、比較的細胞形態の揃った細胞を採取できた。この細胞をIL6とTNF-αで刺激し、IL-6の自己分泌が促進されること(IL-6誘導性炎症アンプ)を確認した。次に慢性的なIL-6シグナル賦活化状態でピロリン酸代謝関連酵素群の遺伝子発現に変化が生じることを確認した。さらに培養液中のピロリン酸濃度が慢性炎症状態では低下することを比色定量法で確認した。この現象は黄色靱帯骨化症や石灰化症の有無にかかわらずみられたことから、疾患特異的な反応ではなく慢性炎症によって生じる普遍的な現象であることが明らかとなった。 最終年度の目標であるin viroのモデルを用いた証明の前実験としてZucker fatty ratのアキレス腱切断モデルを作成し、切断側には異所性骨化が生じることをマイクロCTおよび組織学的に確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腱や靭帯といった異所性石灰化が起こりやすい組織の線維芽細胞において、IL-6誘導性炎症アンプが慢性炎症の原因となっていることをin vitro実験で確認した。さらにこの慢性的なIL-6刺激がピロリン酸代謝異常を引き起こし、石灰化を抑制するピロリン酸濃度が低下することを明らかにした。この現象が初年度に確認したラットだけでなく、ヒト細胞でも起きていることが確認することができた。ヒト由来細胞では当初結果が安定しなかったが、細胞の採取法を細胞分散培養法から比較的均一な細胞群が得られる組織片培養法に変更することによって安定した結果がえられるようになった。また、この現象は黄色靱帯骨化や石灰化の有無にかかわらずみられたことから、疾患特異的でなく慢性炎症に伴って起きる普遍的現象であることが示された。靭帯の石灰化がおこらない若年者由来の線維芽細胞との比較も検討している。 in vivoでの証明や治療標的となるかどうかについては最終年度の研究の結果によるが、in vitroでは仮説が証明され、
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今後の研究の推進方策 |
これまでin vitro実験は中高年齢以降の患者由来の細胞で実験を行ってきたが、靭帯の異所性石灰化の少ない若年者黄色靱帯組織由来の細胞でも同様の現象がみられるかどうかを検証する。 in vivoについては当初、Zucker fatty ratのアキレス腱切断モデルに対して抗IL-6阻害療法などの介入実験を行う予定であり、Zucker fatty ratのアキレス腱切断によって異所性骨化が起きることも確認した。しかしながら、Zucker fatty ratは、抗IL-6量が多量に必要であることや高度肥満を呈するため麻酔による舌根沈下などにより死亡しやすいなどの問題があり、マウスモデルに変更する予定である。アキレス腱の圧挫もしくは切断により異所性骨化・石灰化がみられることは確認されている。最終年度は、慢性炎症を制御することにより異所性骨化を抑制できるかどうかを確認し、in vitro実験結果を合わせて研究総括を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト靭帯由来の線維芽細胞を用いた実験が当初は予定どおりいかず、細胞採取法を組織片培養法に変更することによって安定した結果がえられるようになった。それに伴いin vivo実験に着手が遅れた。また、当初予定したZucker fatty ラットが手術麻酔により死亡しやすいことが明らかとなり、その原因確認に時間を要した。Zucker fatty ラットは高額であり、原因がわかるまで動物実験を延期した。結果的に高度肥満による麻酔薬の体内蓄積や舌根沈下による呼吸抑制が生じやすいことが原因と考えられたため、モデルをマウスに変更することとした。
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