研究実績の概要 |
慢性炎症による石灰化抑制機構の局所的な破綻が、腱や靭帯の異所性石灰化に関与するかどうかを検証した。まずヒト黄色靱帯由来の線維芽細胞において、石灰化制御因子ピロリン酸を制御するENPP1, ANK, TNAPがTNFalpha, IL-6刺激によってどのように発現変化するかを調査した。TNFalpha刺激ではENPP1, ANK, TNAPの発現はすべて上昇、IL-6刺激ではENPP1, ANKは上昇、TNAP発現は減少した。すなわち、IL-6刺激によるENPP1, ANK, TNAPの挙動からはピロリン酸の増加が推測されたが、実際にはIL-6刺激では培地中のピロリン酸濃度は低下しており、石灰化が亢進する可能性が示唆された。黄色靱帯由来線維芽細胞あるいは健常者由来線維芽細胞をTNFalphaまたはIL-6の存在下で骨誘導培地で培養すると、IL-6添加群では石灰化は亢進したが、TNFalpha刺激をすると石灰化は抑制された。TNF-alpha刺激により椎間板細胞のピロリン酸分泌は低下し、石化化が亢進するという既報の機構とは相反する結果であり、細胞種による違いが示唆された。ラットアキレス腱断裂モデルでは、切断後6週間で異所性石灰化/骨化が90%以上の確率で誘導されることをマイクロCTおよび組織学的観察で確認した。病変部には早期に強い炎症細胞浸潤が起こり、線維の乱れ、腱内部に軟骨様組織の形成、血管新生と骨組織の形成が見られた。しかし、炎症を抑制すると骨化は抑制傾向を示したことや、IL-6刺激により生体内石灰化が促進すること、IL-6刺激が局所にIL-6アンプによる慢性炎症を惹起することから、異所性靭帯石灰化はIL-6を基盤とする慢性炎症による影響を大きくうけることが示された。
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