研究実績の概要 |
椎間板変性は腰痛の主な原因の一つである.脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの一つであるアディポネクチンは抗炎症作用を有すると報告されている.アディポネクチンの臨床応用を目指し、アディポネクチン受容体アゴニストであるアディポロン投与が椎間板変性に与える影響を検討した. in vitro実験として腰椎手術時に採取された18例からのヒト椎間板細胞を三次元培地に培養した後に4グループ(Control群: C群, アディポロン投与群: A群, IL-1β投与群: I群, アディポロン+IL-1β投与群: A+I群)に分け, 細胞外基質代謝や炎症性サイトカインへの影響をRT-PCR,蛍光免疫染色,Western Blotting法を用いて検討した. RT-PCRではA+I群ではI群と比較して細胞外基質異化因子MMP-13, ADAMTS-4や炎症性サイトカインTNF-α, IL-6の発現が有意に抑制された(p<0.005). 蛍光免疫染色ではA+I群ではI群と比較してTNF-α, ADAMTS-4の発現が有意に抑制された(p<0.05). Western Blotting法でもA+I群ではI群と比較してMMP-13, ADAMTS-4, TNF-α, IL-6の発現が有意に抑制された(p<0.03). in vivo実験としてラット尾椎針穿刺椎間板変性モデルを用いて3グループ(Control群: C群, 穿刺のみ群: P群, 穿刺後にアディポロン投与群: P+A群)に分け, 経時的に椎間板高を単純X線検査で比較した. P+A群はP群に比べ穿刺後14日及び28日目の時点で椎間板高の減少が有意に抑制された(p=0.001). 以上よりアディポロンは細胞外基質異化因子や炎症性サイトカインの発現低下を通して椎間板変性進行の防止や予防に有用な可能性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
アディポロンの抗炎症作用や細胞外基質異化抑制作用のシグナル伝達経路を明らかにすべく, AMPK経路やNF-κB経路を中心にin vitro実験を進めている. ラット尾椎椎間板変性モデルを用いたin vivo実験も継続し, 組織学的評価, RNAやタンパクレベルでの炎症性サイトカインや細胞外基質代謝の評価を行うことで, アディポロンを用いたアディポネクチンの椎間板における変性や炎症への作用を明らかにしていく予定である。
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