研究実績の概要 |
腱板縫合後の自然治癒能は乏しく,動物モデルの術後の腱骨間には本来の強靭な構造の再生はみられず,脆弱な線維性組織が形成されることが示されている。私たちはこれまで動物モデルを用いてFGF-2などの成長因子の局所投与による組織学的所見の改善および力学的な修復促進効果を報告してきたが,強度に優れた線維軟骨層の再生は認められていない。 近年,発生過程において腱付着部を形成する前駆細胞として転写因子のScleraxis(Scx)とSRY-box 9(Sox9)を共発現する細胞が同定された。また,発生期においてTGF-βは腱前駆細胞の動員と維持を制御する因子の一つとして報告されている。私たちはScxGFP遺伝子改変(Tg)マウスモデルを用いた先行研究で,内在性のScx/Sox9発現細胞が成体の腱板付着部損傷後に一過性にみられ,また,線維軟骨層の自然修復がみられる幼若マウスの修復組織中に成体より多くのScx/Sox9発現細胞が動員されることを示し,生後の腱付着部の修復にScx/Sox9共発現細胞が寄与している可能性について報告した。また,手術手技や薬剤の局所投与が可能なScxGFP Tgラットを新たに作製した。 本研究では,修復過程におけるTGF-β2のScx/Sox9発現細胞への影響とその修復促進効果を明らかにするために,野生型ラットとScxGFP Tgラットの腱板縫合モデルにTGF-β2を投与し修復過程のScx/Sox9発現細胞の局在についての組織学的評価と修復組織の力学的強度の評価を予定している。本年度は,野生型ラットの薬剤投与モデルを作製し,術後6週の力学試験(標本数各10)を行い,有意差はないもののTGF-β2投与群で最大破断強度の平均値が上昇することを確認した。引き続き,ScxGFP Tgラット薬剤投与モデルの作製および標本数の増加と解析を予定している。
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