研究実績の概要 |
本研究は、肩関節腱板断裂の再断裂の主な原因であるenthesis再生不良の原因解明を目的として、Sox9/Scxのgain/loss-of-function後のマイクロアレイ解析でその標的遺伝子を検索・同定し、その分子の機能を解析する事を目指している。前年度はBMPsを含む各種TGF-βファミリー・リガンドをそれぞれ添加した結果、TGF-β1, TGF-β2, myostatin, activin AにSox9/Scx double positive状態を誘導する能力があることが分かった。本年度は、Sox9とScxの過剰発現系構築の為に、まずアデノ随伴ウイルス(AAV)システムを構築した。AAVの初代マウスMSCへの導入を行ったが、内因性同遺伝子に対して10倍以下の発現レベルしか得られなかった。従って細胞の表現型に繋がる変化を得られなかった為に、アデノウイルスシステムへの変更の必要性が生じた。アデノウイルスは構築されつつあり、次年度はSox9/Scx標的遺伝子の検索が可能となる予定であり、上記リガンドの効果とも比較する。標的遺伝子の効果を検討するための動物モデル、すなわちマウスおよびラット肩腱板損傷モデルの構築も開始し、完成している。その表現型を経時的に解析し、今までに報告のない骨軟骨の変化も観察できており、enthesisとの分子的・機能的関連も示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
アデノウイルスによるSox9/Scx過剰発現による効果について、MSCの分化への影響を、軟骨(Sox9/5/6, Agc1, Col2a1, Col11a2, Col10a1など)と腱・靭帯 (Scx, Tnmd, Mkx, Col1a1, Fmod, Col3a1など)のマーカーの定量的RT-PCR法やウエスタン・ブロット法で解析する。期待通りの結果が得られたなら、新規誘導遺伝子をマイクロアレイで検索する。その結果をTGF-β1, TGF-β2, myostatin, activin Aの効果とも比較し、共通項を探る。抽出遺伝子のアデノウイルスを作製し、上記効果の再現性を確認し、再現できた遺伝子を標的遺伝子とする。抽出遺伝子のプローモーター/エンハンサー配列を検索してSox9/Scx結合予想配列があれば、Sox9/Scxのクロマチン免疫沈降実験を行い、直接標的遺伝子か検証する。この遺伝子のin vivoでの発現を正常マウスおよび腱板損傷マウスの腱板enthesisで検討する(免疫組織化学染色またはin situ hybridization)。MSCに標的遺伝子を導入した上で、tissue-engineered tendon を作製し、腱板損傷モデルに移植して効果を評価する。さらにマウスenthesis 針刺入損傷モデルや、腱板断裂suture bridge修復モデルに対しても、同様に検討する。標的遺伝子のshRNAレンチウイルスを導入してloss-of-functionも精査する。
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