研究実績の概要 |
透析は手根管症候群発症(CTS)のリスクファクターであることや手根管開放術後の再発率が高いことが報告されている。しかし、その原因、病態は未だ明らかになってない。本年度は手根管症候群患者の滑膜下結合組織(SSCT)におけるI型コラーゲン(COL1A1)、III型コラーゲン(COL3A1)の発現を検討した。また、COL1A1,COL3A1の制御因子である結合組織成長因子(CTGF), トランスフォーミング増殖因子β(TGFB), Hypoxia inducible factor-1(HIF1)の発現を検討した。手根管開放術を施行した112例のうち、リスク因子としての報告がある過体重、肥満患者を除外した62名(透析患者16名、非透析患者46名)を検討に用いた。透析患者、非透析患者における平均年はそれぞれ69.4±1.7歳、70.2±1.9歳であり有意な差は認められなかった(P=0.802)。男女比は10:6, 15:31であり有意な差が認められた(P=0.036)。 リアルタイムPCRを用いてSSCTにおけるCOL1A1, COL3A1の発現を検討した結果、透析患者のSSCTにおける COL1A1, COL3A1の発現は非透析患者に比して有意に高かった(COL1A1, P=0.032; COL3A1, P=0.038)。透析患者におけるCOL1A1, COL3A1の発現はHIF1の発現と高い相関を示した(COL1A1, r=0.540, P=0.031; COL3A1, r=0.548, P=0.028)。一方、CTGF, TGFBとCOL1A1,COL3A1との間に相関は認められなかった。HIF1は肺や肝臓などの種々の臓器の線維化に関与することが報告されている。HIFを介したコラーゲン産生増加は透析患者におけるCTS発症リスクの増加に一因となるかもしれない。
|