研究実績の概要 |
変形性膝関節症(KOA) の早期治療は我が国にとって大変重要な課題であるが、その発症に関与する分子レベルでの反応の詳細については未だ明らかにされていない。申請者は低酸素環境中のラット骨髄間葉系幹細胞(MSCs) が通常酸素環境へ暴露されることで骨形成能が促進されることを既に報告した。本研究の目的は、ヒト人工多能性幹細胞(iPSCs) を用い、上記の酸素濃度変化時の遺伝子発現量の解析等を従来より正確性に重点を置いて行い、その結果から分子レベルでの機序を解明し、KOAのみならず他関節OAの病態解明と、将来的にそれに対応した新規薬剤の開発に資することである。 ヒトiPS細胞を未分化維持培地で培養し、confluent に達した時点をDay0とした。チャンバー内の酸素濃度を7%とし、Day 0から骨分化誘導培地へ変更しDay 28 まで培養した群をH群とした。チャンバー内の酸素濃度を7%とし,Day 0から骨分化誘導培地へ変更しDay 7 まで培養し、次にチャンバー内の酸素濃度を21%に変更しDay 28まで培養継続した群をHN群とした。Day 0, 7, 14, 21, 28 のサンプルからRNAを抽出し,未分化マーカー・骨芽細胞分化マーカー・骨細胞分化マーカーについてのRT-qPCRを行った。RT-qPCR で両群とも未分化マーカーは経時的に有意に減少し,骨芽細胞・骨細胞分化マーカーは増加傾向を示した。両群でヒトiPS細胞の骨分化が示唆された。HN群とH群を比較した結果,HN群でDay 21以降の骨芽細胞分化マーカー(RUNX2,BMP2,SP7)と骨細胞分化マーカー(SOST)が高値である傾向を示した. 本研究の結果から、酸素濃度7%の環境下であっても、培養中に酸素濃度を変化させても、ヒトiPS 細胞の骨分化が示された。さらに、骨分化誘導実験中に酸素濃度を上昇させることで、骨分化が進行する可能性が示唆された。 上記結果により、KOAの病態において、微小環境の酸素濃度変化が、その進行に寄与している可能性がある。
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