研究課題/領域番号 |
20K09520
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
重原 一慶 金沢大学, 附属病院, 講師 (20595459)
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研究分担者 |
川口 昌平 金沢大学, 附属病院, 助教 (30706883)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒトパピローマウイルス / 尿 / 膀胱癌 / 前立腺癌 / 性感染症 |
研究実績の概要 |
1)2020年度は泌尿器科外来を受診し、膀胱癌を疑い経尿道的手術(TUR-Bt)を施行した204例の患者(男性172人、女性32人)から、自然尿および膀胱洗浄液を採取した。まず各検体からDNAを採取し、Nested-PCR法を用いてHPV-DNAの有無を確認し、HPVが陽性となった検体において遺伝子型判定を実施した。 HPV検出率は、自然尿で24例(11.7%)、膀胱洗浄液で17例(8.3%)であり、両検体からの同時検出率2.5%(5例)であった。予想以上に尿検体・膀胱洗浄液からのHPVの同時検出は少なく、尿検体からHPVが検出された多くの場合は「膀胱内感染」を意味するものではなく「尿道感染」であった可能性が示唆された。一方、膀胱洗浄液からHPVが検出され、尿からはHPVが検出されなかった12例においては、HPVの膀胱内感染であると推定された。 自然尿と洗浄液の両方で検出された5例中4例は、high gradeの尿路上皮癌、残り1例はinverted papillomaであった。遺伝子型については、自然尿および洗浄液ともに高リスク型であるHPV16が最も多かった。 2)男性にとって尿路の1つの重要な部位として、前立腺が挙げられる。尿検体からHPVが検出された場合のHPV感染部位について、尿道や膀胱だけでなく前立腺も考えられる。そこで2020年度は、膀胱癌に限らず前立腺癌でロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術を施行した患者の前立腺組織を用いて、HPVの前立腺への感染の可能性についても追加検討を行った。2017年7月~2019年5月に当院で前立腺全摘術を施行した106患者のパラフィン包埋腫瘍検体106例を用いてHPV-DNAの検出率を検討し、HPVは12例(11.3%)に認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然尿・膀胱洗浄尿におけるHPV検出率についての検討は、200例を超える十分な検体数を採取できた。全検体においてDNA抽出およびPCR法を用いたHPV-DNA検査の実施が終了しており、HPVが陽性であった症例についても型判定まで終了できている。このため、次項に記載する2021年度の検討にスムーズに移行できるものと考えている。 われわれは、以前より尿検体を用いた尿路HPV感染のスクリーニングについて数多くの検討を行ってきた。今回の検討では尿検体と膀胱洗浄液を用いてHPV検出率を比較し、尿からHPVが検出されたときに、尿路のどの部位にHPV感染が生じているかについても言及するため、前立腺癌組織を用いて前立腺組織(前立腺部尿道含める)へのHPV感染の可能性についても追加検討することとした。前立腺についても、106例の検体を収集することができ十分な検体数であったと考えている。現在は、全例においてHPV-PCR検査は終了している。 上記より本研究は概ね順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、膀胱洗浄液からHPVが検出された症例(17検体)において、膀胱癌組織検体(パラフィン包埋組織)を用いてHPV検査を実施し、癌組織内にHPVが感染していたか否かについてPCR検査を用いて調査するとともに、in situ hybridization法を用いてHPV‐DNAの組織内の局在を検討したいと考えている。さらに、HPVが陽性となった尿検体、洗浄液検体の残りを用いてセルブロックを作成し、in situ hybridizationを用いて、尿路に含まれるどの細胞にHPV感染が生じていたかについて追加検討を予定している。 また、自然尿でHPVが検出された症例 (24検体)においては、継時的に尿検査を実施し、HPVの持続感染の有無まで言及できたらと考えている。 前立腺とHPV検出については、前立腺組織からのDNA採取を癌部・前立腺部尿道部・非癌部に分けて行い、各部位でのHPV-DNA検出率を比較するとともに、in situ hybridization法を用いてHPV感染部位を同定したい。 HPVが陽性となった膀胱洗浄液検体、前立腺検体ともに20-30例程度であり、2021年度の1年間で実験は容易に遂行可能と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年後は、新型コロナウイルス蔓延の影響で学会出張ができず、本研究に関わるすべての学会・研究会はWEBで参加したため、その余剰分は次年度に繰り越し、2021年度の物品費用分(おもにHPV遺伝子型判定キット)に充てる予定としている。
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