研究課題/領域番号 |
20K09520
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
重原 一慶 金沢大学, 附属病院, 講師 (20595459)
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研究分担者 |
川口 昌平 金沢大学, 附属病院, 助教 (30706883)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒトパピローマウイルス / 尿 / 前立腺癌 / 膀胱癌 / 性感染症 |
研究実績の概要 |
1)膀胱癌を疑い経尿道的手術を施行した233例の患者のうち、自然尿および膀胱洗浄液を採取できた201例(男性167例、女性34例)を最終解析とした。各検体からDNAを採取しPCR法を用いてHPV-DNAの有無を確認し、HPVが陽性となった検体において型判定を実施した。自然尿および洗浄液におけるHPVの検出率は、それぞれ9.5%および7.0%であり、型判定の結果は、両検体のHPV型は全く一致していなかった。尿検体からHPVが検出された多くの場合は尿道感染のコンタミであった可能性が示唆された。膀胱洗浄液で検出されたHPVの由来が膀胱であることを証明するために、膀胱洗浄液検体を用いてin situ hybridization(ISH)法にて細胞診評価でHPV-DNAの存在部位を観察したところ、55.7%の検体において、HPV-DNAが尿路上皮細胞の核内に観察できた。次に洗浄液で検出されたHPVが膀胱腫瘍からの由来であるか否かを検討するため、パラフィン包埋組織検体を用いてISHを行ったところ、66.7%の症例で腫瘍組織内にHPVシグナルを確認できた。最終的には洗浄液でHPV陽性であった88.9%の症例で、細胞診もしくは腫瘍組織内にHPV-DNAの存在が確認された。本研究によって洗浄サンプルで検出されたHPV-DNAが膀胱に由来することが多いことが示された。 2)尿検体からHPVが検出された場合のHPV感染部位について、尿道だけでなく前立腺も考えられる。そこで2020年度の検討で収集した前立腺癌患者106例のパラフィン包埋腫瘍検体を用いてHPV-DNAの検出率を検討し、HPVは12例(11.3%)に認められた。そのうち8例においてISHによって前立腺組織内にHPV-DNAの存在を確認でき、特に前立腺部尿道に近い部位にシグナルを確認した。前立腺にもHPVが感染することが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然尿・膀胱洗浄尿におけるHPV検出率についての検討は、201例の有効検体を採取できた。全検体においてHPV-DNA検査、HPV遺伝子検査が実施することができた。両検体から検出されたHPV遺伝子型を比較すると、遺伝子型はほとんど一致しないことが分かった。さらに膀胱洗浄液でのISHによる細胞診評価、および腫瘍組織を用いたISHによって、洗浄液から検出された場合、約90%の症例において、HPV-DNAが膀胱の尿路上皮細胞もしくは腫瘍組織由来であることを突き止めた。すなわち、膀胱内HPV感染の状況を調べるには膀胱洗浄液を用いることがふさわしいと結論付けることができた。この時点で2021年度の研究目標を十分に達成できたと考えている。膀胱内HPV感染の自然史に関する研究は未だ存在せず、現在、膀胱洗浄液HPV陽性症例から経時的に検体を採取し膀胱内HPV感染の自然史を調べたいと考えている。 また我々は尿路のHPV感染部位として尿道、膀胱だけでなく前立腺にも着目している。106例の前立腺検体を収集することができ、HPV-DNA検査およびISHを行うことで、前立腺へのHPV感染も証明できた。 上記より本研究は概ね順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、2021年度末までのデータを論文化したいと考えている。また膀胱洗浄液からHPVが検出された症例(14検体)において、定期的膀胱鏡検査時に洗浄液を採取し、HPV感染が持続化しているか否かについて検討したい。膀胱内HPV感染の自然史に関する研究は未だ存在せず、膀胱洗浄液HPV陽性症例から経時的に検体を採取し膀胱内HPV感染の自然史を調べることは貴重な研究であると考えている。 前立腺とHPV感染との関連性については、106例中12例(11.3%)にHPVが検出され、そのうち8例においてISHにて前立腺組織内にHPV-DNAシグナルを確認した。来年度は前立腺内のHPV感染形態(episomal感染もしくはintegrated感染)について、免疫組織化学を用いて調べたいと考えている。特に癌部でHPV感染が確認できた症例では、HPV-DNAがintegrateされていることが確認できれば、癌化との関連性についても言及できるかもしれない。免疫組織化学は、HPV-E4蛋白、p16-INK4a、HPV-L1蛋白の発現を調べたいが、いずれも以前当教室で実験を施行したことがあり、容易に遂行可能と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの蔓延によって、予定していた国内学会のオンライン開催および海外学会への出張をひかえたことから、予定としていた計上していた学会参加費・旅費がなく、一部は実験に必要となった試薬に充てたものの残額が生じたため、次年度へまわすこととした。
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